「子どもから届いたはずの荷物がないんです」
近畿地方の消費生活センターに6月、70代の女性からこんな相談が寄せられた。荷物は娘からの贈り物で、玄関先に届ける「置き配」に指定されていた。
女性が宅配業者に問い合わせたところ、既に配送済みで、配達員が撮影した女性宅の玄関前に置かれた荷物の写真も送られてきた。
配達側の人手不足を背景に新たな宅配の形として急速に広がりつつある置き配だが、盗難などのトラブルも相次ぐ。
置き配増加の背景に、物流逼迫(ひっぱく)
宅配ボックスの普及もあり、多くの宅配業者が置き配を導入している。
宅配ボックスの販売大手「ナスタ」(東京都港区)が昨年11~12月、インターネットショッピング利用者1000人を対象に実施した調査では、72・4%が「置き配を利用したことがある」と答えた。
置き配が広まった背景には、物流業界の深刻な人手不足がある。法改正でドライバーの時間外労働が上限規制され、ドライバー不足が顕在化する中で、再配達率は8・4%(4月現在)と高止まりを続ける。
国土交通省は6月末、物流の逼迫を解消しようと、宅配業者が置き配をしやすいように宅配に関する条件を定めた「約款」の見直しの検討を始めた。
受け取り側にとっても、対面での受け取りや不在時の再配達の手続きなどの煩わしさを回避できるメリットがあるため、比較的スムーズに受け入れられてきた。
ただ、置き配にはリスクもある。懸念されていることの一つが盗難被害だ。
不在票悪用、宅配ボックスごと持ち去りも
届いた荷物を無事に受け取るには、どうすれば良いのか。
「有効な対策を取ると同時に、それをアピールすることも大切です」
警備保障会社大手「ALSOK」の島村大樹広報課長はそう話す。
置き配と一口に言っても、玄関前▽自転車のかご▽物置▽宅配ボックス▽ガスメーターボックス――などさまざまな置き場を指定できる。
島村さんは「より安心なのは宅配ボックス。今後普及がさらに進むかもしれない」と指摘する。
ところが、カギのかけられる宅配ボックスも万能ではないようだ。
最近特に多いのが、宅配ボックスに荷物を届けたことを知らせるため、宅配業者が郵便受けなどに入れる不在票を悪用する手口だという。
暗証番号を入力して開けるタイプの宅配ボックスの場合、暗証番号は宅配業者が設定し、不在票に記してあることが多い。
郵便受けから暗証番号の書かれた不在票を抜き取ったり、盗み見たりすれば、暗証番号を入手することは可能だ。
中には、害虫駆除などに使われる粘着質の「とりもち」を利用して、カギのかかった郵便受けの中の不在票をひっつけて、抜き取るケースまで報告されているという。
また、戸建てに多い、地面に固定されていないタイプの宅配ボックスごと持ち去る大胆なケースもあるという。
効果的な対策は
島村さんは、暗証番号が不在票ではなくスマホに通知されるサービスに変えることも推奨する。
加えて「配達されるものの価値に応じて保険をかけることも有効ではないでしょうか」と話す。
さらに抑止効果として勧めるのが、防犯カメラの設置だ。
「最近は電池式で外に設置しやすいものもある。『防犯カメラ設置中』のステッカーも貼っておけば、対策を取っているアピールになって効果が上がります」
他にはコンビニエンスストアなど、自宅以外を受取場所に設定することでも、受取時間を気にせずに確実に荷物を受け取ることができる。
盗難補償は誰が?
万が一、置き配の荷物を盗まれてしまったら泣き寝入りするしかないのだろうか。
置き配を導入する宅配大手のヤマト運輸や佐川急便では、社内の規定で配達完了後の盗難や紛失は補償の対象外としている。
そのため原則として責任は負わないが、両社とも「それぞれの状況を確認して個別に対応している」のが実情だという。
日本郵便は東京海上日動火災保険などと共同で、置き配による荷物の盗難被害を補償する「置き配保険」を始めた。
事前に日本郵便と合意した通販会社などが発送し、置き配を指定した荷物が対象で、1万円を上限に補償する。
他の保険会社でもこうした補償プランを導入する動きは出てきている。【田中理知】
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