武満徹が夢見たポリヴァーバルに挑む 細川俊夫さんのオペラの作り方

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多言語によるオペラ「ナターシャ」を作曲した作曲家の細川俊夫さん=東京都渋谷区で2025年6月2日、宮本明登撮影
多言語によるオペラ「ナターシャ」を作曲した作曲家の細川俊夫さん=東京都渋谷区で2025年6月2日、宮本明登撮影

 「オペラというのは全然好きじゃなかったんです。考えたこともなかったんですよ、自分がオペラを書くということは」

 そう語る作曲家をオペラに向かわせたのは、35年前に発売された一冊の新書だった――。

 日本とドイツを中心に創作活動を展開し、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など世界の名だたるオーケストラから委嘱を受けてきた作曲家、細川俊夫さん。通算8作目となるオペラ「ナターシャ」がこの夏、東京・新国立劇場で世界初演される。

 台本は日独2カ国語で創作を行うベルリン在住の作家、多和田葉子さんが手掛け、オペラでは複数の言語がパラレルに使用される。「多言語オペラ」という発想の背景にも、あの本の影響があった。

「オペラをつくる」

 「オペラを作り始める時、この本を毎回読みます」

 記者が差し出した一冊の赤い表紙の岩波新書。細川さんがぱらぱらとページをめくりながら穏やかに語る。

 本のタイトルは「オペラをつくる」。著者は武満徹(1930~96年)と大江健三郎(35~2023年)。

 そこには国際的に知られた作曲家と作家のオペラをめぐる対話が収められている。

 オペラを作曲するという構想を持った武満は、若い頃から親交のある大江を「同行者」に迎えた。結局、作曲家の早すぎる死によりオペラは実現しなかったが、2人はまだ見ぬオペラの在り方を語っている。

 細川さんは81年に武満と知り合った。その後、武満が企画した公演で細川さんの作品が演奏されたり、武満の推薦で海外音楽祭に招かれたりもした。

 新書が刊行された90年ごろ、細川さんの元に初めてオペラの作曲依頼が舞い込んだ。「オペラの勉強をしようとした時に出た本なので、これは本当に何度も読みました」

自我の表現ではない作曲

 かねて細川さんは武満の音楽や思想に影響を受けてきた。その一つが「一つ一つの音に世界を聴く」という考え方だった。

 「僕が作曲を勉強したドイツでは、(作曲行為において)音は組み立てるものという考え方がある。でも、一個一個の音に…

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