/140 辻村深月 画 佐伯佳美

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 そう話し、この後もまたこの駅の別の不動産屋に寄る用事があるという山本と、その場で別れる。コーポかささぎの別の住人の立ち退きの件かもしれない、と思ったが、それ以上は凌生も聞かなかった。

 山本から連絡があったのは、その二日後だった。

『本当に、本当に力不足で申し訳ありません……!』

 苦渋に満ちた声の留守電が入っていて、職場の更衣室で着信に気づいた凌生は、その内容を、へこんだロッカーを撫(な)でながら聞いた。

 あーあ、とため息とともに声が漏れる。気に入っていた落合駅近くの物件。その入居申し込みにあたっての保証会社の審査に落ちたのだ。

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