山本が言う。
「見ていただけたら、気に入っていただけるかもしれません。コンビニがすぐ近くにあって――」
山本が熱心に勧める声が頭に入ってこない。資料に見える駅徒歩十九分の文字を見て、だからだろ、と毒づきたくなる。条件がいい分、駅が遠いのだ。
「いいよ。もっかい、ちゃんと資料見て、また連絡する。内見は――」
内見も一人でいい、と言いたかった。だが、前回、タトゥーのことや保証会社の件でまともに相手をされなかったことを思うと、癪（しゃく）だが、山本がいた方が確かにいいのだろう。
／146 辻村深月 画 佐伯佳美
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