
警視庁公安部から不正輸出のぬれぎぬを着せられた化学機械メーカー「大川原化工機」を巡る冤罪(えんざい)事件は、メディア各社の報道にも課題を残した。
大川原化工機の代理人弁護士として取材対応も担った高田剛弁護士(53)の目に、一連の報道はどう映ったのか。その思いを聞いた。
<主な内容>
・突然の逮捕
・連絡してきた報道機関は3社だけ
・警察との関係、再考を
過去の関連記事は、連載「追跡 公安捜査」で公開中
――まず、逮捕時のことを教えてください。公安部は大川原化工機が経済産業相の許可を得ずに装置を中国に不正輸出したという疑いを掛け、2020年3月に大川原正明社長(76)ら3人を外為法違反容疑で逮捕しました。
◆正直、逮捕されるとは思っていませんでした。
公安部からは18年10月に会社を家宅捜索されましたが、それ以降も延べ291回に上る任意聴取に応じるなど懇切丁寧に対応していました。
輸出規制ルールを定めている経産省とも対話を続けていました。
ルールに従えば、大川原化工機の装置は輸出が禁じられるものではありません。
ところが公安部は、ルールを定めた経産省令を都合良く解釈し、装置は輸出規制品だから輸出するのは違法だと言うのです。
私たちが話し合いでこの溝を埋める作業をしていたところ、警察は逮捕という手段に打って出ました。
逮捕後、すぐに弁護団を結成し、社長らと接見して黙秘を指示しました。
また、残された社員と話し合い、逮捕に反論するとの会社の方針を決めました。
逮捕から5日後、在京の新聞・テレビ12社宛てに、会社の見解を伝える文書をファクスで送信しました。
連絡してきた報道機関は3社だけ
――文書はA4判3ページで「逮捕に関し、誤解を招くおそれのある内容の報道が散見された」という書き出しで始まります。捜査を違法と断じた25年5月の東京高裁判決は、立件の前提となった公安部の独自の省令解釈について「合理性を欠く」と認定しましたが、報道各社に送った文書は、まさにこの省令解釈の誤りを指摘する内容でした。
◆警視庁は逮捕容疑について「生物兵器製造に転用可能な装置を中国に不正輸出した」と説明し、報道各社はそれを基に逮捕を一斉に報じました。
事実と異なる一方的なものです。
私たちは、会社の信用毀損(きそん)が広がるのを何とかして食い止めようと考えてファクスを送ったのです。
ただ、記憶する限り、私に連絡があったのはフ…
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