/147 辻村深月 画 佐伯佳美

Date: Category:カルチャー Views:1 Comment:0

 山本が続けた。

「私は職業柄、さまざまなお客様を担当しますが、介護職をされている他のお客様たちを見ても、鹿島さんはもっと好条件で働けるはずだと思います。収入だって上がるはずです」

「なんだそれ。前も言っただろ。そうやって転職できるのは、選べる(﹅﹅﹅)ヤツで、オレの場合は――」

 だから、今の職場にへばりついている。あるいは介護福祉士の資格がもう受かって取れていればそういう発想もできたかもしれないが、それすらない。

 山本との内見の最中に、長ズボンを取りにロッカーに寄り、戸澤と暴力沙汰すれすれのやり取りをした。翌日は、職場で戸澤にクビを言い渡されることも覚悟したが、戸澤の方でも喫煙の負い目があったためか、今に至るまで何事もなかったかのように接してくる。積極的に何かを言ってくることもないかわりに、やんわりと無視されて、そのまま時が経(た)っている。ロッカーも、弁償だのなんだの言われない代わりに、へこんだままで、…

Comments

I want to comment

◎Welcome to participate in the discussion, please express your views and exchange your opinions here.