
「世界平和なんて、無理だと思っています」。長崎市で原爆被爆遺構のガイドを務める安永年軌さん(34)=長崎県諫早市=は、意外なことを口にした。ただし、傍観しているわけではない。ガイドを務めるとともに、昨年10月には長崎原爆や平和をテーマにしたブランドを立ち上げ、平和の意義を問う発信を続けている。自らを「普通の会社員のおじさん」という安永さんが追求する、平和とは。
中高年であれば多くが知っている長崎原爆のさく裂時刻、1945年8月9日午前11時2分。それを知らない若者が増えていることを知り、安永さんは平和を考えてもらうきっかけづくりのために「August Nine(オーガストナイン)」というブランドを勤務先の副業制度を利用してつくった。長崎市出身のデザイナーらと協力し、平和祈念像や「核の傘」を模したモチーフを使った缶バッジやキーホルダーなどを販売。商品製作工程の一部を就労支援施設に委託し、収益の一部は児童養護施設に寄付している。目指すのは「社会課題伴走型ブランド」という。
被爆遺構を巡るガイドも、少し趣向が異なる。掲げるのは「長崎ホープツーリズム」。参加者の年齢などによって語りを変え、長崎市の爆心地公園や平和公園を巡る中、問いかけや雑談を重視する。参加者の中に子どもがいれば、母親を亡くした女の子のエピソードを紹介し、爆心地公園の当時の地図を見ながら「女の子の家はどこだろう」「自分と同じ名字はある?」と問いかける。そうして記憶の世界にいざない、平和の意義を問う。安永さんは「平和を考える機会を、悲しい、怖いで終わらせたくない」と語る。
母方の祖父が被爆者の3世。しかし祖父も母も戦争や原爆のことをあまり語らなかった。それに「子どもの頃に平和学習で被爆者の写真を見たり朗読劇を聞いたりすることは、ただ怖かった」。成長してからも「平和活動は『意識高い系』の人たちがやること」と、関心を持てなかった。
転機は20代。…
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