「責任は私にもある」 警視総監、会見での一問一答 大川原冤罪

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記者会見場に入り、頭を下げる迫田裕治警視総監(左)=東京都千代田区で2025年8月7日午前10時31分、新宮巳美撮影 拡大
記者会見場に入り、頭を下げる迫田裕治警視総監(左)=東京都千代田区で2025年8月7日午前10時31分、新宮巳美撮影

 化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)を巡る冤罪(えんざい)事件で、警視庁の迫田裕治警視総監は7日、同庁本部(東京都千代田区)で記者会見を開き、「捜査の基本を欠き、(大川原化工機側に)多大なご心労、ご負担をおかけしたことをおわびする」と謝罪した。警視庁トップの警視総監が会見で謝罪するのは異例。

 主な発言は以下の通り。

深くおわびを申し上げる

 <迫田総監の冒頭発言>

 本日、国家賠償請求訴訟判決を受けた警察捜査の問題点と再発防止策に関する検証報告書を取りまとめ、東京都公安委員会に報告し、ご了承を得ました。

 警視庁といたしましては、今回の検証で明らかになりましたように、当時、公安部において、組織的な捜査指揮がなされなかったことで捜査の基本を欠き、その結果、控訴審判決で違法であるとされた捜査を行ったことを真摯(しんし)に反省しております。

 本件捜査によって逮捕された3人の方々、捜査対象となった噴霧乾燥器の製造・販売会社の関係者の方々に多大なご心労、ご負担をおかけしたことにつきまして、改めて深くおわびを申し上げます。

 また、亡くなられた会社の顧問の方、及びそのご遺族の方々には、心から哀悼の意を表しますとともに、本件捜査によって多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて、深くおわびを申し上げます。

指揮系統の機能不全が最大の反省

 今回の検証報告書を取りまとめるに当たりましては、本件のような事案を二度と起こさないためにも、現場の捜査員が当時、通常要求される捜査を遂行していたか否かを超えて、今回の過ちについて、組織として捜査の基本を徹底し、より的確に判断するならば、どうすべきであったかという観点から捜査上の問題点を抽出いたしました。

 そのような観点から、本件捜査上の問題点を総括いたしますと、公安部全体の捜査指揮系統の機能不全ということが、最大の反省事項だったと考えております。

警視庁本部=東京都千代田区で2023年12月13日午後1時39分、本社ヘリから三浦研吾撮影 拡大
警視庁本部=東京都千代田区で2023年12月13日午後1時39分、本社ヘリから三浦研吾撮影

 この問題を解決し、再びこのような事案を起こさないため、再発防止策として、組織としての捜査指揮を、適正かつ実効あるものとするための仕組みや体制を再構築することといたしました。

 また、それが十分に機能を発揮できるよう、公安部内の各レベルにおける、より良い捜査指揮に資するための意思疎通の円滑化を促進する各種の取り組みを進めることといたしました。

 最後に、本件捜査により多大なご心労、ご負担をおかけした皆様、また、警視庁を支えていただいている都民、国民の皆様に、改めて深くおわびを申し上げます。

 警視庁といたしましては、今回の検証結果を踏まえ、警察に与えられている捜査権の重みを十分に理解し、緻密かつ適正な捜査を推進することにより、都民、国民の期待に応えられるよう、たゆみのない努力を積み重ねてまいる所存でございます。

本件にさまざまな立場で関与

 <質疑>

 ――今回の検証結果は副総監をトップとする検証チームが取りまとめたが、総監自らが記者会見に臨んだ理由や思いを。

 ◆今回の検証報告書は副総監を長とする検証チームが取りまとめたものですが、本件は組織として捜査の基本に欠けるところがあり、公訴が取り消されるという異例の事案であることから、私自身もこれまでの検証過程において、警視庁のトップとして必要な対応を行ってまいりました。

大川原化工機を巡る冤罪(えんざい)事件で、警視庁がまとめた検証報告書の概要=東京都千代田区で2025年8月7日、新宮巳美撮影 拡大
大川原化工機を巡る冤罪(えんざい)事件で、警視庁がまとめた検証報告書の概要=東京都千代田区で2025年8月7日、新宮巳美撮影

 また私個人といたしましても、長く公安・外事警察部門での勤務経験を有しておりまして、本件にもさまざまな立場で関与してきた経緯がございます。そうしたことを踏まえ、私から説明させていただくこととした次第でございます。

十分な対策講じず反省

 ――今回の一連の過程で、総監自身、警察庁外事課長や警視庁公安部長を務めていた時期があった。そうした経緯を踏まえ、今回の検証をどのように受け止めるのか、再発防止にどのような姿勢で取り組んでいくのか。

 ◆これまで警視庁や警察庁などにおきまして、長く公安・外事警察部門で幹部の立場にあった者といたしましては、情報保全を徹底しなければならない、そうした部門の業務の性質上、このようなことが起こりうる状況にあったにもかかわらず、十分な対策を講じるまでにいたらなかった点につきまして、反省するところでございます。

 今回策定された再発防止策を着実に実施することで、公安部の業務に伴って生じる業務の弊害を取り除きながら、このような事案を二度と起こさないよう公安部全体の捜査指揮能力の向上に努めてまいる所存でございます。

反省を職員一人一人が胸に刻む

 ――今後、どうやって公安部を指導していくのか。厳しい検証となっているが、指導とあわせてどうやってチアアップしていくのか。

 ◆今警視総監という立場でございますので、今回の反省事項を公安部の職員一人一人が深く胸に刻んで、再発防止策の着実な実施に取り組むよう求めていきますとともに、今一度、警察に与えられている捜査権の重みをしっかりと浸透させてまいる、そういった所存でございます。

 そうすることで、公安部全体の捜査指揮能力、ひいては捜査能力全般の向上につなげ、成果につなげていく。結果、おのずと職員の士気も上がっていくものと期待するところでございます。

「壮大な虚構」は不適切で撤回

 ――警視庁は控訴審の準備書面の中で、捜査員3人の証言について「壮大な虚構」という表現で批判した。今回の検証結果の中では、その表現を撤回したところだが、この点について総監としての所感を。

 ◆検証報告書においても記載しました通り、「壮大な虚構」という表現は、3人の捜査員への配慮を欠くのみならず、将来にわたって職員が自由に意見を述べることを萎縮させかねない点においても不適切なものだったと考えております。

 この点を踏まえ、警視庁としては、今後はこうした考えは一切持たないという決意とともに撤回することとしたものでございます。

謝罪する迫田裕治警視総監=東京都千代田区で2025年8月7日午前10時33分、新宮巳美撮影 拡大
謝罪する迫田裕治警視総監=東京都千代田区で2025年8月7日午前10時33分、新宮巳美撮影

 これに関連して、当方の裁判中における準備書面において、関係者の主張についていき過ぎた表現があり、心情を害したというご指摘がありましたならば、その点についても真摯に受け止めたいと、このように考えております。

消極要素に十分な注意払わず

 ――警視庁公安部長経験者として、公安部が他の部門と違ってどういった特異性があって、それが冤罪事件にどのような影響を与えたのか、ご見解を。

 ◆公安警察部門はその業務の性質上、情報保全を厳格に行う必要性が他部門に比べて極めて高いという事情がございますことから、業務の進め方等について、係の垣根をこえた知見やノウハウの共有が行われにくい傾向にあると考えております。

 本件捜査における問題点の背景には、こうした公安部特有の問題があったうえに、当時の外事1課5係の担当管理官、それから5係長が事件検挙を第一に考えて業務運営に当たっており、本件を何とか立件できるように積極方向で捜査を進めて、捜査上の消極要素について、十分な注意を払っていなかったところでございます。

 そうした状況下において、公安部長以下の捜査指揮系統の機能不全によって逮捕が見落とされる結果につながったものと考えておりまして、こうした問題を二度と起こさないようにするため、今回の再発防止策を徹底してまいる所存でございます。

個人としてもじくじたる思い

 ――総監は今回の事件の(大川原化工機側への)捜索と任意の取り調べが始まった時期に警察庁外事課長を務めていたが、どういう報告を受けてどう対応したか。また、警視庁公安部長を務めている時に起訴取り消しがあった。検証報告書では、検証開始が4年近くたってからになったことについて「真摯に受け止める」ということだが、これについて東京都公安委員会からはどのような意見が出たのか。それを踏まえ、当時公安部長としてすぐに検証を指示しなかった理由と責任をどう考えるか。

 ◆まず外事課長当時の質問ですが、私自身警察庁外事課長当時に、捜索差し押さえの実施予定を含めて、本件捜査について報告を受けております。

 これは必要に応じて、警察庁が全国警察の活動を調整するための報告を受けているということです。

 そうした目的の報告ですので、経産省との協議状況ですとか、捜査の詳細な内容までは承知をしていなかったというのが実態です。

 しかしながら、警察庁外事課長としての在任中に、私の元で起きていたことの責任は私にもあると考えています。

 控訴審判決が示された現時点において考えますと、本件により深く関与することができたかもしれないという点で、私個人としてもじくじたる思いがありまして、反省すべきところと考えております。

 それから起訴取り消し後についてのご質問ですけども、東京都公安委員会からのご指摘に関しましては、公訴取り消し後の対応についても検証報告書の中で説明が必要ではないかというご指摘がありました。

 そういったご指摘も踏まえて、報告書に項目をもうけて記載をしたところでございます。

 それから公訴取り消し時の公安部長としての対応ですけども、公訴が取り消されたことに伴いまして担当の外事1課におきましては、公訴取り消しに至った経緯ですとか、捜査に問題があったのか分析をし始めたところ、私からも東京地検の説明ぶりを確認するよう求めたりしておりましたほか、今後争点になりそうなことについて、確認、整理をするよう指示をしたりしておりました。

 そうした中、約1カ月後に国家賠償請求訴訟が提起されて、ほぼ同じ時期に私も公安部長職を離れましたけども、その後、本件捜査にかかる事実関係については、審理に対応する過程で確認、整理しておくことになったものと承知をしておりまして、公訴取り消し直後の、先ほど申し上げました初期作業に吸収、統合されていったというふうに理解しているところでございます。

 いずれにいたしましても、なぜ被害者が4年近く頑張らないと検証に踏み出すことができないのかといった一連の訴訟対応に対するご批判を真摯に受け止めているところでございます。

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