任期満了に伴う川崎市長選(10月12日告示、26日投開票)で、被差別部落の地名をウェブサイトに掲載するなどした出版社「示現舎」の代表、宮部龍彦氏(46)が7日、無所属で立候補を表明し、全国初のヘイトスピーチに刑事罰を科す川崎市の条例廃止を目指すと述べた。
宮部氏は鳥取市出身。2015年に川崎市多摩区に出版・ウェブメディア示現舎を設立した。被差別部落の地名をウェブサイトに掲載し、プライバシー侵害だとして各地で提訴され、一部訴訟で敗訴している。
7日、高津区で行われた出馬会見で、宮部氏は、日本に住む外国出身者を対象としたヘイトスピーチ解消法や川崎市のヘイトスピーチ防止条例は「表現の自由を侵害する」と語り、廃止を目指すと主張した。
宮部氏はまた、在日コリアンが集まって住む地域は治安が悪く、住宅が密集しており、放火されたら危険なので「更地にして開発すべきだ」と主張。その理由として、在日コリアンが集住する京都府宇治市のウトロ地区で起きた21年8月の放火事件に言及した。
「(ネット上で)焼き払え、という人たちの理由がなくなる」という宮部氏に対し、記者団から「放火は犯罪だ。ヘイト犯罪をやめろというべきなのでは」と声があがったが、宮部氏は「だって放火したら危ないじゃないですか」と明確な回答を避けた。
宮部氏は、「施策が具体性に欠け市内企業・市民の利益にかなっていない」と持続可能な開発目標(SDGs)の推進に反対。「『人権』や『共生』、『ダイバーシティー(多様性)』といった言葉は禁句にしてもいい。もっと分かりやすい言葉に置き換えたい」といった発言もした。
有識者、宮部氏の主張は「明らかな間違い」
宮部龍彦氏が「治安上問題がある」と主張した在日コリアンが多く住む特定地域について、市地域安全推進課の担当者は「全国的にコロナ禍明けの2022年ごろから刑法犯の認知件数は増加傾向にあるが、川崎市も同様だ。しかし特定地域が突出して件数が多いことはない」と否定した。
また宮部氏が、ヘイトスピーチに刑事罰を科す条例の廃案を目指す根拠として「表現の自由に侵害する」を挙げたことに、専門家は反論した。
ヘイトスピーチ問題に詳しい神原元弁護士は「表現の自由は無制限、無制約のものではない。これは判例上、憲法学上も明らかだ。ヘイトスピーチは特定の人種や民族に対する差別的言動であり、人権侵害だ。(宮部氏の主張は)明らかな間違い」と指摘した。
また宮部氏が特定地域を「更地にすべき」と発言したことについて「ヘイトクライムの助長につながりかねない」と問題視した。【矢野大輝】
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