
スーパーの鮮魚売り場で、何の変哲もないパック入りの切り身に手が伸びた。安さもさることながら、魚種名でも無い「白身魚」という素っ気ない表示に興味が湧いたからだ。
パックの裏面を見ると見慣れない魚の名が記されていた。その名も「パンガシウス」。
字面から古代魚や深海魚のたたずまいを連想する。調べると、国内外で近年需要が拡大しているれっきとした養殖魚だという。背景を探った。
<主な内容>
・食卓彩る淡水魚はどこからくる?
・今後も増加見込まれるわけ
・お勧めの食べ方
・くら寿司の「補欠」から「レギュラー」に
・安けりゃいい? 水産業関係者の思いとは
10年で4・5倍
まずはその素性を尋ねるべく、東京都千代田区の「大日本水産会」へ足を運んだ。
水産業に関わる572の企業や団体が加盟する一般社団法人だ。
部署の一つ「魚食普及推進センター」によると、パンガシウスは東南アジアに生息するナマズ目パンガシウス科の淡水魚。30種類もの仲間がいるというから驚きだ。
現地では「バサ」や「チャー」と呼ばれることもある。
とりわけベトナム南部の肥沃(ひよく)なメコンデルタが一大養殖地。2010年代初めごろから日本に輸入されるようになった。
スーパーの鮮魚売り場に切り身や味付けされた加工済み商品として並ぶなどし、私たちの胃袋に収まっている。
財務省の貿易統計によると、主要生産国であるベトナムからのパンガシウスの輸入量(冷凍フィレ)は24年に1万668トンと、初めて1万トンを超えた。2364トンだった10年前の4・5倍にまで伸びている。
今後も増加見込まれるわけ
「日本は海の魚を特に好んで食べる傾向にあり、まだまだ浸透していない。でも、今後も需要の拡大は続くでしょう」
パンガシウスの伸びしろについて語るのは、東京都江東区にある「東洋冷蔵」の鈴木一正・営業第1課長。パンガシウスの輸入シェアで国内トップに立つ総合水産商社だ。
ベトナムのパンガシウス輸出先を見ると、24年は中国27・7%、米国16・4%などと続き、日本はわずか1・9%。
だが、これが将来的にタイ(3・0%)やブラジル(6・2%)並みになると、鈴木さんは語る。
世界中で天然魚の漁獲高が頭打ちになる一方、養殖魚が増加の一途をたどっていること…
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