オランダ西部ハーグで6月下旬に開かれた北大西洋条約機構(NATO、米欧32カ国加盟)首脳会議は、これまで国内総生産(GDP)比2%としていた加盟国の防衛費目標を、2035年までに5%に引き上げることで合意し、幕を閉じた。この会議は欧州の秩序の転換点として記憶されるだろう。
2人の主役
会議の表の主人公はトランプ米大統領、陰の主役はNATOのルッテ事務総長だった。会議で防衛費目標の大幅な引き上げが決まった一番の要因は、米国による圧力だ。米国の防衛費はNATO加盟国の防衛費総額の6割以上を占める。トランプ氏は米国の負担が重すぎると不満を表明し、防衛費目標を5%に引き上げるよう他の加盟国に訴えていた。
NATOが従来の2%の目標を設定したのは14年。10年後の24年の段階で、達成したのは加盟32カ国中、22カ国にすぎない。それを一気に5%に引き上げるというのだから相当の無理があった。
だが米国は強気だった。米国は中国や北朝鮮の軍拡や、台湾有事に備えるため、軍事力の重点を、欧州、大西洋からアジア、太平洋に移しつつある。トランプ氏はNATO脱退の可能性も含め、米国の関与低下を示唆した。
一方、欧州各国にとって米国の核抑止力と防空能力などは必要不可欠だ。そこでルッテ氏が考え出したのが、従来通りの防衛費を意味する「中核的な防衛費」を3.5%とし、インフラ整備など定義があいまいな「防衛関連費」1.5%と合わせて5%とする妙手だった。「5%」を受け入れトランプ氏の顔を立てつつ、実際の追加支出を極力抑える意図があった。
大幅な防衛費目標引き上げの二つ目の背景は、…
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