万博開催中の大阪で、台湾文化の祭典が開かれている。
台湾文化部(文化省)が主催する国際交流イベント「We TAIWAN 台湾文化 in 大阪・関西万博」。視覚芸術や舞台、工芸など、さまざまな分野の展示や公演、体験型のプログラムが、大阪市内の各会場で大規模に展開されている。
20日まで。入場無料。一部は事前予約が必要。プログラムの詳細は「We TAIWAN」公式ホームページ(https://wetaiwan.tw/jp)。
「We TAIWAN」のなかから、映画と文学のプログラムについて紹介する。
台湾映画と台湾の歴史をたどる
台湾ニューシネマをはじめ、日本でも根強い人気を誇る台湾映画。「国家映画と視聴文化センター」(TFAI)は、「台湾映画の輝かしい今昔」シリーズを企画し、厳選した10作品を上映する。
11~20日、大阪市中央公会堂1階大集会室。上映作は、「イン・アワー・タイム」(エドワード・ヤン監督ほか)▽「台北之晨 A Morning in Taipei」(白景瑞監督)▽「上山 The Mountain(陳耀圻監督)▽「王船祭典 The Boat-Burning Festival」(張照堂監督)▽「恋人たちの食卓」(李安監督)▽「ザ・ファンタジー・オブ・ディア・ウォーリア」(張英監督)▽「ポエトリーズ・フロム・ザ・ブックストアズ」(侯季然監督)▽「ミレニアム・マンボ」(侯孝賢監督)▽「ハヨン一家〜タイヤル族のスピリット」(陳潔瑤監督)▽「僕と幽霊が家族になった件」(程偉豪監督)――。
名監督作にドキュメンタリー、B級映画など、テーマもスタイルも異なる多彩な10作が並ぶ。
台湾映画の歴史をたどるだけではなく、日本統治の影響や国民党の時代など、台湾の歴史、多様な文化を知ることができるラインアップになっている。
「優しい自由の表現」を知ってほしい
TFAIは映画やテレビ番組の保存や修復を担う台湾の行政法人。映像資料専門の図書館や上映ホールを併設し、ロビーには古いカメラや編集機材、フィルムなどが展示されている。上映会や企画展を企画し、年間10~12本のペースで作品の修復を続けているという。
TFAIの褚明仁会長は10本の映画を選んだ基準について、①台湾の映画が時代によってどのように変化してきたかが分かる②台湾らしさがある③監督の知名度――を挙げた。褚会長は「台湾の昔と今をもっと知ってもらいたいですね。台湾のダイバーシティー、活力、台湾の文化をどのように映像化しているのか、そこを一番見てほしい」と語った。
15、18日の午後7時に上映される「ポエトリーズ・フロム・ザ・ブックストアズ」は、15軒の独立系書店を追った詩的な映像作品。書店を舞台にした恋愛ドラマの結末で、毎回個性的な書店を紹介したドキュメンタリーが基になっている。
同作の侯季然監督は「映画を見て、独立系の書店に足を運ぶ人が増えればうれしい」と期待を込めた上で、「台湾の優しい自由の表現の仕方を日本の方に伝えたい。優しい自由、優しい抵抗です。紙の本を愛し、スローライフを求めている人はちゃんといますよ、というメッセージです」と話す。15日の上映後にはトークイベントを予定している。
文学に表れる魔法や幽霊、妖怪
文学では10~20日、「マジカル台湾」と題した文学展が大阪市中央公会堂3階特別室で開催される。「夏の怪談」が風物詩の日本に呼応し、魔法や超自然、神々、幽霊、妖怪などの切り口で台湾の文学作品を紹介する。
台湾は豊かな自然に恵まれ、土地や動植物に基づくさまざまな信仰や伝説が根付いている。ユーラシア大陸と太平洋を結ぶ島には、台湾原住民族や、各時代に移り住んだ人々の民間信仰、物語が蓄積されている。
展示では「台湾原住民文化」「日本文化の影響」「台湾民俗再発掘」「現代大衆文学」「文学小説のマジック」「詩の中のマジック」の六つのエリアで、台湾の神々や妖怪の足跡を追う。また、同公会堂地下1階大会議室では、台湾の作家による対談や講演会が開催される。
「伝説や怪談は現実を反映している」
17日午後2時、「残酷さを映す純真な眼差(まなざ)し―台湾マジックリアリズムの書き方」のタイトルで講演する甘耀明さんは、日本でも人気の作家の一人だ。「今回の講演のテーマは童話の残酷さです。私の本を読んでいる人も、そうでない人も興味を持ってもらえると思っています。私の認識している台湾について話したい」と抱負を述べた。
甘さんは台湾流の魔術的世界を構築し、台湾の近現代史を作品に取り込んできた。代表作「鬼殺し」(白水紀子さん訳、白水社)は、生者と死者の間をさまよう「鬼」のイメージ・存在を通して、日本の統治とその後の台湾の歴史や、人々の心理を描き出した。「伝説や怪談は現実の反映だと思っています。民族の夢ともいえるかもしれません」と語る。
「マジカル台湾」を企画した台湾文学館の陳瑩芳館長は次のように説明する。
「21世紀に入った現在でも、多くの現代作家たちが小説や詩の形式を通して、台湾社会に存在するさまざまな魔術的要素を再発見し、表現し続けています。神々や妖怪は決してタブーではなく、むしろ生活と密接に関わっているため、文学においても頻繁に取り上げられるテーマになっています」
その上で「今回の展覧会が、台湾への関心や興味を深める『窓』になればと願っています」とコメントした。【棚部秀行】
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