
生まれつき左手の指がないため、グラブは右手にはめる。打球をキャッチすると、グラブを左脇に抱え、右手でボールを投げる。
器用な動きを繰り返す県岐阜商の横山温大(はると)選手(3年)。走攻守そろったチームの主力として、憧れの甲子園にやってきた。
「ハンディキャップがあっても、こんな大きな舞台でプレーできる」。子供たちに勇気や希望を与える存在になりたいと思っている。
のめり込んでいった野球
横山選手が野球を始めたのは小学3年。兄昂大(こうだい)さん(28)のプレーを見て、「ボールを打ってみたいな」と思ったのがきっかけだった。
「人一倍練習しないと、周りの子についていけないぞ」
父直樹さん(49)の言葉通り、左手のハンディを乗り越えようと、どんどん野球にのめり込んでいった。
投手として三振を取った時、打者としていい当たりを出した時、その感触が心地よかった。

左バッターとして右手でバットを握り、左手を添える。ボールがバットにミートする時まで添え続け、左手で押し込みながら、振り抜いていく。
もともとは右打ちだったが、地元のスポーツ少年団で野球を始める前、直樹さんから「左打ちの方が振り抜きやすいから」とアドバイスを受けて転向した。
努力家の勲章
中学時代は投手と外野手を兼任。守備では捕球してからグラブを外して右手でボールを握るまでのスムーズな動きがポイントになる。
一秒でも早くしようと、自宅で直樹さんからボールを投げてもらって地道に練習してきた。
素早い返球のため、手を抜きやすいようにグラブの手の入り口部分を広くしている。
「もっと早くできる。まだまだ足りない」
努力家のグラブには左腕に抱えた時にこすれたり、汗が染みこんだりした勲章が刻まれている。
「自分もいつかはあの場所に立ってみたい」
甲子園の夢をかなえるためには、地元の強豪が魅力的だった。

県岐阜商に入り、当初は投手でプレーしていたが、球速が目標とする140キロに届かず、苦しんだ。高校1年の秋、打力を生かせる外野手に転向した。
打率は5割超え
最終学年で迎えた岐阜大会。打撃は19打数10安打の5割超え。守備でもチームメートからの信頼は厚く、河崎広貴主将(3年)は「守備範囲は広く、グラブの握り替えも早い。ハンディとは思っていない」と話す。
チームとしては3年ぶり31回目の甲子園の切符。初戦は11日の第1試合で日大山形と対戦する。
岐阜大会から調子は変わっていない。試合前の練習でも鋭い打撃を見せている。
「甲子園のプレーにわくわくしている。みんなと変わらないプレーでたくさんヒットを打ちたい」
目指すは一戦必勝での全国制覇。その表情は自信に満ちている。【砂押健太】
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