
舞台で活躍する俳優なら誰でも一度は演じてみたい役がある。
女優があこがれる筆頭格が「マクベス」のマクベス夫人なら、男優の筆頭格は同じシェークスピアの「ハムレット」のハムレットだろう。近年では、市村正親さんや藤原竜也さんら人気俳優が悲運のデンマーク王子を演じている。
そんな「ハムレット俳優」の長いリストに、9月、新たな名前が加わる。
片岡千之助さん、25歳。祖父に人間国宝である片岡仁左衛門さん、父に名女形の片岡孝太郎さんを持つ名門の出身。近い未来の歌舞伎界を担うことが期待される、まさに若きプリンスだ。
「祖父もかつてハムレットにふんしています。だから、最初は同じ役を演じられる喜びでいっぱいでした。しかし、いざ稽古(けいこ)に入り、初日も迫ってくると、『ああっ、なんてことをやろうとしているのだろう』と良い意味で苦しんでいます」
復讐に突き進む悲劇
父である国王の横死が、実は叔父クローディアスの手によるものとの疑念を抱いたハムレットが、復讐(ふくしゅう)に突き進んでいく物語。すべてが破滅へと向かう悲劇を一身に背負うだけでなく、叔父の妻となった母ガートルードや、佞臣(ねいしん)ポローニアスの娘オフィーリアへの複雑な思いをせりふに乗せなければいけない。
有名な「生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ」をはじめ長大なハムレットのモノローグも、腕の見せどころであると同時に、初めて挑む演者にとっては高い壁となってそびえ立つ。
「とりあえずせりふを記憶しようという姿勢ではなく…
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