
建物からアスベスト(石綿)を取り除く危険な業務に長年携わった神奈川県の70代の男性が2022年9月に亡くなった。「石綿が舞う環境だった」。そう語った同じ会社の社長と専務はそれぞれ石綿による健康被害として労災認定されたが、男性は当初、不認定とされた。
その理由は男性の発症した病が肺がんだったためだ。
大手機械メーカー・クボタ旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺住民らの健康被害が明らかになった「石綿ショック」から20年。さまざまな救済制度が整備されたが、今も被害は拡大している。被害者や支援者への取材、海外の対策などから解決のあり方を提示する。
上:救済制度のすき間
中:「名ばかり調査者」の横行
(13日6時半公開予定)
下:海外に学ぶ根絶への道筋
(14日6時半公開予定)
「肺がんの認定を抑制」
石綿はさまざまながんや疾患を引き起こす。このうち、中皮腫は臓器を包む胸膜や腹膜などにできるがんの一種で、ほとんどの患者は石綿を吸い込んだことで発症する。
これに対し、肺がんは石綿に限らず、喫煙なども要因となる。このため、石綿による肺がん被害の実態は把握しづらく、救済の隙間(すきま)からこぼれ落ちる被害者も多いとされている。
1997年にヘルシンキで開かれた石綿疾患の国際専門家会議では、「中皮腫患者が1人いれば、肺がん患者は2人いる」とする見解が示された。つまり、石綿が原因の肺がん患者は、中皮腫患者の約2倍いるということになる。
だが、労災認定などで救済されるのは中皮腫患者が圧倒的に多い。肺がんの患者団体や労働組合などでつくる「石綿対策全国連絡会議」によると、95~2023年度に石綿健康被害救済法や労災認定などで救済された中皮腫患者の割合は67・1%だった。一方、肺がんは…
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