
「我々はずっと『戦後』と言えるのでしょうか」
俳優の池松壮亮さん(35)は問いかけた後、続けた。
「本当にそう言い続けたい。でも、開戦のにおいが全くしないとは言えないですよね」
終戦から80年を迎えるこの夏、太平洋戦争前夜を描いた主演ドラマが放送される。胸の内にあるのは、戦争への危機感と、「自分たちの仕事は社会変革につながる」という俳優としての信念だ。
「黙殺された歴史に驚がくした」
1941(昭和16)年8月、近衛文麿首相の直属機関「総力戦研究所」が米国と戦争した場合のシミュレーションを行い、「日本必敗」という結果を内閣に報告した。
戦争が長期化し、最後はソ連参戦で行き詰まることまで予測した内容だ。
だが、陸相だった東条英機は「机上の演習と実戦は異なる」と退ける。2カ月後、内閣総辞職を受けて首相に就き、日米開戦を決断した。
ドラマは、この史実を基にしたノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」(猪瀬直樹著)が原案となっている。演出、脚本を務めた石井裕也監督が5年ほど前、映画にするつもりで池松さんに主演をオファーしたのが始まりだ。
「この脚本と出合い、黙殺された国の歴史に驚がくしました」と池松さんは打ち明ける。曲折を経て8月16、17日の午後9時からNHKスペシャルとして放送されるドラマ「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」が完成した。
この国に今も続く「見えない圧力」
総力戦研究所に集められたのは、軍部や官僚、民間から将来を担う平均33歳のエリートたち。「模擬内閣」を組織し、軍事・外交・経済などの機密情報も含めたデータの分析や机上演習などを通じて、総力戦の展開を予測していく。
池松さんが演じる宇治田洋一は、民間人である産業組合中央…
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