ふるさと納税の自治体別寄付受け入れ額(2024年度)が発表され、千葉県銚子市が前年度から4倍近く伸びて県内トップになった。反対に、これまで首位を独走していた勝浦市は3位に転落。明暗を分けたのは、食卓で定番のあの魚だった。
【中村聡也、岩崎信道】
「まさかここまで人気が出るとは」
国内有数の海産物の水揚げ量を誇る銚子市。ふるさと納税推進班の担当者は驚きを隠せなかった。
総務省によると、24年度の県内のふるさと納税の寄付額は、多い順に銚子市26億4999万円▽いすみ市19億4014万円▽勝浦市16億6588万円。市町村の合計は221億円で都道府県別で21位だった。
銚子市は前年度の7億円から一気に増え、市町村別で10位から1位に。その要因は、約2年前に返礼品に加えた「訳あり厚切り塩銀鮭切り身」だ。
「通常」から「訳あり」へ
南米チリ産の銀ザケの製造工程で出た規格外の「二級品」の寄せ集めで、寄付額は切り身2キロで1万2500円など6パターン。24年度の市の寄付総額の半分程度を占めた。恩恵は品物を提供する地元水産会社「銚子東洋」にも及び、同社の売り上げ全体の約1割に上った。
銚子市の返礼品にはこれまで「通常」のサケがあったが、「訳あり」はなかった。
加えたのは23年度から。ふるさと納税の手続きを代行する事業者と組んで返礼品の充実化を進めた。「訳あり」サケで寄付集めに成功していた勝浦市に追随することに。切り身は1切れ約120グラムと通常売られるサイズの2倍近く分厚くし「お得感」を演出した。
インターネット広告にも力を入れた。ふるさと納税のポータルサイトで、納税者が検索したキーワードと関連する返礼品を表示する検索連動型広告も取り入れ、需要を喚起した。
消えた人気の返礼品
銚子市の担当者は、勝浦市が人気返礼品を失ったことで「納税者が流れてきた」とも話す。
勝浦市の寄付額は前年度の51億円から7割減。一番人気の返礼品「わけあり B級銀鮭切り身」を提供していた地元水産会社が製造場所を勝浦市の工場からいすみ市の工場に移し、返礼品のラインアップから消えたためだ。
新たに「B級銀鮭」を返礼品として入手したいすみ市は、勝浦市を抜いて2位に浮上した。
ふるさと納税頼みのリスク
この順位変動は、自治体運営にどう影響するのか。
銚子市は25年度にサケ効果で30億円の寄付を見込む。経費を差し引いても半分以上は市の収入になる。同年度の市税収入を78億円と見込む市にとって極めて大きな財源だ。これを元手に保育所の給食費無償化などを始めた。
ふるさと納税は安定財源でないため、今後期待するほど寄付が集まらなくなる可能性がある。市は集まった寄付を長期的に子育て支援や厳しい経営が続く銚子電鉄の支援などに活用するため、市の基金に積み立てている。
一方、市税収入が20億円強の勝浦市にとって、億単位の寄付減少は切実だ。それでも、人口減少が進む地域で他に有力な財源があるわけではなく、照川由美子市長は「新しい返礼品を生み出していく」と巻き返しを誓った。
Comments