高校野球・夏の甲子園2回戦(15日)
○東洋大姫路(兵庫)8―4花巻東(岩手)●
好きな言葉は「明鏡止水」。澄み切った静かな境地を指す。東洋大姫路のエース右腕、木下鷹大(ようた)はその言葉通り、走者を背負った時こそ心を落ち着かせ、崩れなかった。
2点リードで迎えた五回だった。連打から2死二、三塁とされた。点差を考えれば、1点も与えたくない。相手の9番・山崎力から初球でストライクを奪うと、自分のスパイクの靴ひもがほどけているのに気づいた。タイムを取って結び直し、一呼吸ついた。
「ピンチの時こそ丁寧に」。緩い変化球で追い込むと、最後は直球で空振り三振に仕留めた。外角低めにきちんと制球された球を受けた捕手の桑原大礼は「この試合のベストボールだった」とたたえた。
ピンチでも動じない心は今春のセンバツを機に養われた。先発した広島商との2回戦で5回6失点で降板し、チームは敗れた。昨秋は主戦投手だった阪下漣が肘の故障を抱えていた中、夏に向けて自身に課したのは「完投する力をつけること」。最速147キロの球威が生きるよう配球を学び、兵庫大会では昨夏の代表校だった報徳学園との決勝で先発し、最後まで投げ抜いた。
「経験値を積み、冷静に投げられる」と気持ちにゆとりを持って臨んだ夏の甲子園。済美(愛媛)との1回戦も9回3失点で完投した。この日もチェンジアップなどを要所で見せて粘投。九回途中までマウンドを守り、阪下に託した。
チームは1977年大会で優勝した実績があるが、3回戦に進んだのは、後にプロ野球・ヤクルトに入団する原樹理を擁して8強入りした2011年以来、14年ぶりだ。
「点差が開いた終盤はコントロールが甘くなってしまったので修正したい。次も投球からリズムを作り、攻撃につなげる」。かぶとの緒を締めることも忘れないのは、まだまだ満足していないから。この夏、背番号1を託された右腕が、古豪復活の機運を高める。【黒詰拓也】
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