米アニメ映画に登場する3人組のK―POPガールズグループが、BTSに続く世界的ヒットを成し遂げた。
Netflixで配信中の「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」の挿入歌「Golden」が12日、米ビルボードのメインシングルチャート「Hot100」で1位を獲得した。これまでK―POPで同チャート1位になったのは、BTSとメンバー2人のソロを合わせて8曲のみで、新たな代表曲の誕生となった。
Netflixの世界ランキングによると、映画は8月第1週(4~10日)現在、米英カナダなど英語圏をはじめ、韓国や香港など計16カ国・地域で1位。しかし、日本では「クレヨンしんちゃん」シリーズに1、2位を奪われ、5位にとどまっている。
世界の熱気と隔絶した日本語版
K―POPの世界的な波は、たいてい米国から始まる。しかし日本は、その勢いに乗り切れていない。その一因とみられるのが、日本語吹き替え版の仕様だ。
日本語版はせりふだけでなく挿入歌まで日本語歌詞に差し替えており、英語の原曲とは別物になっている。歌詞と字幕が一致せず、特に主人公が自らを輝かせて上昇していくイメージで歌う「UP、UP、UP」というサビのキーワードも字幕から消えている。
高音のサビを熱唱するものまね動画がユーチューブで人気だが、その盛り上がりは日本の視聴者にはピンとこないだろう。
吹き替え版は30カ国以上で配信されているが、他言語版はせりふのみを吹き替え、挿入歌は原曲を使用。日本語版だけが歌まで吹き替えられたのは、制作したソニー・ピクチャーズ・アニメーションが日本市場でのヒットを狙ったためかもしれない。
日本人歌手も歌唱力はあり、楽しみ方は人それぞれ。ただ、世界的な反響を感じたいなら、原曲を聴かなければ話にならない。
製作陣の核は韓国系米国人
この映画の特徴は、北米在住の韓国系アーティストらが多数関わっていることだ。
BTSが米国で成功した背景には、世界的な「推し活」の拠点となった韓国系米国人コミュニティーの存在が大きい。彼らはアジア系やアフリカ系、さらには性的少数者らと連携し、従来の「マッチョで強い男性像」を打ち破り、中性的で美しい男性像という新しい価値観を広めた。
今回のK―POPガールズは、女性版の新しいコンセプトとして「仲間とともに輝く女性像」を打ち出している。
映画の監督は韓国系カナダ人女性のマギー・カン氏で、5歳でカナダに移住。映画全体の楽曲を手掛け、「Golden」の作詞・作曲とボーカルも担当したEJAE(本名キム・ウンジェ)氏は韓国系米国人女性だ。
練習生を経て見えた希望
EJAE氏は2000年代半ば、K―POPアイドルを志して韓国芸能事務所大手SMエンターテインメントに所属し、約10年間にわたって練習生として猛特訓を積んだ。
当時は、日本でも人気だった「少女時代」の全盛期とも重なる。デビューの機会は得られず、米国に戻り作曲家に転身した。
韓国メディアとのインタビューでEJAE氏は、練習生時代に芸能界の暗い部分を見たからこそ「Goldenの歌に、私の希望を込めた」と語る。「韓国人は何事にも一生懸命だけど、自分を追い詰めすぎる傾向がある。完璧でなくても、失敗してもいいと伝えたい」と、新しいアイドル像も明かした。
韓国のアイドル養成課程は、食事や行動制限が厳しい集団生活が前提で、欧米メディアから「虐待的」と指摘されることもある。しかし映画では、アイドルたちが本番前にスナック菓子をほおばり、カップラーメンをすするなど、人間味ある日常が描かれている。
多様で境界を越える世界観
映画は、BTSに似た男性5人組が実はファンの魂を奪う悪魔の手先であり、主人公のルミが率いる女性3人組「HUNTR/X(ハントリックス)」が立ち向かう設定。正義の味方を女性にしたK―POP界の男女バトルという構図に見えるが、話は単純ではない。
ルミは悪魔と人間の間に生まれた子という「出生の秘密」を抱え、相手を排除するのではなく「一緒に自由になる道」を模索する。多様性を大切にするK―POPの世界観が全体のテーマになっている。
二項対立にしない発想は、海外在住の韓国系が二つの文化の間で揺れながら、境界を越えて自由であろうとする姿とも重なる。カン監督は「映画はK―POPへのラブレター」と語った。韓国のKに縛られない新しいK―POPの潮流はますます加速しそうだ。【堀山明子】
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