(くま書店・3300円)
憑依で生み出されたかの世紀の奇書
断言しよう。本書はまぎれもなく、21世紀における最大の奇書の一つである。SFのロジックと幻想小説の奇想をあわせもち、圧倒的なボリュームで読者をねじ伏せにくる。平均3行に一つは奇想天外なアイディアが繰り出されるため読みやすいとは言えないが、「とんでもないものを読んでしまった」という感慨は、あの劉慈欣『三体』に優(まさ)るとも劣らない。
著者の西尾康之は、現代美術界ではつとに知られた作家で、「陰刻鋳造」という技法を駆使するほとんど唯一の彫刻家だ。粘土の原型から石膏(せっこう)で鋳型を作り、そこに石膏を流し込んで原型と同じ像を得るという通常の鋳造手法に対し、陰刻鋳造ではいきなり粘土に指を押しつけて窪(くぼ)みを作り、これをそのまま鋳型として石膏を流し込む。銅鐸(どうたく)も同様の製法だったというが、西尾は鋳型を自身の指だけで作る。…
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