小技を確実に遂行して、強打を支える。
全国高校野球選手権第12日の17日、第3試合の3回戦に臨む東洋大姫路(兵庫)の木本琉惺(りゅうせい)選手(3年)はこの夏、犠打の成功率が10割。「失敗しない職人」としてチームに尽くす。
木本選手の見せ場はいきなりきた。15日の2回戦、花巻東(岩手)戦の一回。先頭打者が出塁すると、2番の木本選手が初球、バントの構えから優しく打球を投前に転がす。走者をきっちり得点圏の二塁に進め、後続の適時打で先制に成功した。
猛練習の末につかんだコツは「来たボールに対してバットを置きにいく。ただ、待っているだけでいい」。三回の第2打席は犠打、六回の第4打席は相手一塁手の猛チャージをかいくぐるバント安打を決めて、いずれも得点につながった。
これでこの夏は兵庫大会が7犠打、甲子園1回戦の済美(愛媛)戦も2犠打で、2回戦も合わせて計11犠打と圧巻の数字だ。甲子園ではバント安打も2本決めている。
本人いわく「犠打の成功率は100%」。光る献身性にも「自分は皆の引き立て役になれればいい。お膳立てができればいい。そこは腹くくっています」と淡々と振り返る。
バントは生き残りを懸けた道だった。今春の選抜大会はスタンドから応援。最後の夏へ、何とかメンバー入りを目指そうと頭を巡らせる中で、俊足を生かした小技強化にたどり着いた。
日ごろの打撃練習から約8割をバント練習に充てた。フリー打撃ではブンブンとバットを振り、ものすごい打球を飛ばす仲間の姿に「本当は自分だってめちゃめちゃ飛ばしたいし、打ちたい」と葛藤もあったが、「自分にしかできない形で貢献する」と決意は固かった。
兵庫県西宮市出身で、数々の甲子園の名勝負の熱気を身近に感じながら少年時代を過ごした。だが、いざ自分が聖地を目指す立場になると厳しさを痛感した。
強豪の東洋大姫路に入学するも「一番下っ端。本当に下手くそやった」。1年生の時は寝坊して練習に参加できないこともあった。「迷惑かけてばかりだったので。迷惑かけた分は取り返さないといけない」
日々の地道な練習も音を上げることなくやり遂げられた理由には、そんな恩返しの思いもあった。最後の夏、岡田龍生監督が標ぼうするバントを活用した「緻密な野球」に、木本選手は欠かせない存在になった。
下克上という言葉が好きだ。「元々はどん底にいたけど、ここまではい上がってこられた。甲子園でプレーするという夢をつかめて、めっちゃ気持ちいいし、楽しいです」。高揚感に浸りつつ、目の前の一打席に集中する。【角田直哉】
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