高校野球・夏の甲子園3回戦(17日)
●仙台育英(宮城)3―5沖縄尚学○
2点を追う延長タイブレーク十一回、2死三塁。仙台育英の左腕・吉川陽大(あきひろ)は打席に立つと、涙が止まらなくなった。
「打力に自信のない自分を打席に立たせてくれた(監督の)須江(航)先生の顔が浮かんで……」
フルカウントからの8球目。変化球に懸命にバットを合わせたが、二ゴロに打ち取られた。
「あの時、バッピ(バッティングピッチャー)をしてくれたのに」
「控えの選手がサポートしてくれたのに」
申し訳なさがこみ上げ、一塁ベース付近でしばらく立ち上がれなかった。
試合は沖縄尚学の2年生左腕・末吉良丞(りょうすけ)との投げ合いになった。3―3で延長タイブレークに突入し、十回は無失点で切り抜けた。
だが、十一回に失策で勝ち越され、なおも1死二塁で甘く入った球を適時三塁打とされた。「ふがいないピッチングで、仲間に申し訳ないです」と肩を落とした。
2年秋からエースナンバーを背負うが、当初は「仲間のサポートに気づけない自分がいた」。プレーに納得がいかないと、ふてくされた態度を取った。
高校時代は控えだった須江監督に「控え選手では味わえない悩みがあることは幸せなんだ」と諭され、意識を変えた。3回戦の前夜、野球日誌に「仲間のために投げる」と書いた。
試合後の取材でも涙を抑えられなかった。ただ、係員に着席を促されても座らず、気丈に振る舞った。
「(今後の進路は)周囲と相談して決めます。仙台育英で、須江先生とこの仲間じゃなかったら、ここまで頑張れていなかった」
今大会、確かな存在感を放った左腕。最後は感謝の言葉を残し、甲子園を後にした。【深野麟之介】
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