
戦後80年、戦争を知る人の声を聞くことがかなわなくなりつつある今、私たちはどのように戦争と向き合えばいいのか。日本軍兵士の実態などの研究で知られる歴史学者の吉田裕・一橋大名誉教授(70)に聞いた。【聞き手・竹内麻子】
――この80年、日本人の戦争観はどのように変化してきたのでしょうか。
◆敗戦からしばらくは「あの悲惨な戦争をもう二度と繰り返してはならない」「軍隊や戦争はこりごりだ」という意識が幅広く形成された。実感と体験に裏打ちされた平和主義が非常に強かった。一方、戦争の被害が中心で、加害性や侵略性についての認識は弱かった。
それが変わり始めるのが1980年代だ。アジア諸国から植民地支配の歴史に関する日本の認識を問われるようになり、マスコミの世論調査でも「アジア・太平洋戦争は侵略戦争だった」と考える人が半数を超えるようになった。95年には侵略戦争と植民地支配の歴史に対する反省とおわびが盛り込まれた村山富市首相談話も出された。
しかし、90年代後半には戦争を正当化するような動き、いわゆる歴史修正主義的な揺り戻しも起きてくる。世論調査でも侵略戦争か自衛のための戦争かに加え「両方の側面がある」という新たな選択肢が出てきた。世論の傾向としては、侵略が3割、自衛が1割、両方の側面が4割、わからないが2割となり、その後もあまり大きな変化はないようだ。
戦争を正当化できない気持ちも強いが、海外から侵略戦争と断定されることへの反発やためらいがかなりあると感じる。「これ以上の謝罪は必要ない」という世論も根強い。今も戦争に対する評価は定まっておらず、国民的な合意が十分になされていないと思う。
――吉田さん自身はアジア・太平洋戦争をどのように評価しているのでしょうか。
◆国際関係の次元で考えると、自国の権益を維持・発展させるために戦争という手段に訴えることは国際法において違法なので、侵略戦争に当たるといえる。特に開戦前の日米交渉で中国本土から日本軍が撤兵するよう米国に求められたのに断固拒否したことが戦争のきっかけになったことを考えると、中国での権益維持が目的でやはり日本の侵略戦争と言える。
一方、実際に戦争を担った…
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