
全国高校野球選手権大会の足元で、ある「異変」が起きている。選手が履くスパイクの色だ。大会第8日の13日で出場49校が登場し、すべて白色のスパイクを使用していた。かつては黒のみだったが、近年は白が急速に拡大し、ついに黒が姿を消した形だ。暑さ対策だけではない理由もあるようだ。
「今は白がマスト」
敦賀気比(福井)は3月の選抜大会までは黒スパイクを使用していたが、春の大会から白スパイクに転じ、今夏の選手権大会でも白スパイクを使用した。ある選手は「暑さが全然違う。すごく涼しくて、楽に感じる」と歓迎した。

敦賀気比のユニホームはグレーのストライプ。他校の選手からも「かっこいい」と評判のデザインだ。黒スパイクはよく映えているように見えた。
国本開(かい)部長によると、チーム内での葛藤もあったが、最終的には白スパイクへの切り替えが決まった。暑さ対策の機能面とともに、メーカーが黒スパイクの製造を取りやめるケースがあることが決め手になったという。
大手メーカーの担当者は「出荷ベースでは、高校生はほぼ白いスパイクを買っている。49校がすべて白いスパイクというのは、うなずける結果」と話す。
このメーカーでは黒スパイクの製造を完全に取りやめたわけではないが、「以前は黒の製造がマストだったが、今は白がマスト」と明かす。
暑さ対策はもちろんだが、強豪校が白スパイクを甲子園でいち早く使い始めたことが広がりを後押ししたのではないか、と担当者はみる。
「グラブのカラーも、強豪校が甲子園で使うと一気にそのカラーがトレンドになる。強豪校の選手が白いスパイクを履いているのを見て、他の学校も『意外とありだな』と思ったのではないか」と分析する。

高校野球の公式戦で白スパイクが使用可能となったのは2020年。日本高校野球連盟はメーカーの商標の大きさなどを細かく規定し、従来は黒スパイクしか認めていなかったが、暑さ対策の一環として、黒よりも温度が上がりにくいとされる白の使用を認めた。
その年は新型コロナウイルスの影響で、選抜大会と選手権大会は中止になり、夏に開かれた「2020年甲子園高校野球交流試合」が白スパイクの「甲子園デビュー」となった。その頃はまだ珍しかったが、5年で一気に一般化した。
それでも、黒スパイクの学校がなくなったわけではない。
今夏の地方大会でも黒スパイクを貫く強豪校がいくつか見られた。そのうちのある選手は「スポーツ店で黒スパイクの選択肢が少なく、探すのが少し大変。夏も暑い。でも、うちは黒なので、これも伝統校らしくていいと思う」と話していた。
これからも高校野球界では白スパイクの時代が続きそうだが、現場の意見はさまざま。スパイク一つにも、白か黒かで簡単には割り切れない事情がある。【石川裕士】
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