初めて時給が1000円超の1045円に引き上がる見通しになった和歌山県の最低賃金。働く現場は時給アップを歓迎する一方、企業経営者からは影響の大きさを心配する声も上がる。
海南市の野長瀬真由美さん(44)は3年前に大阪から職場を移した当初、「こんなに時給が違うのか」と驚いたという。現在は3歳の長男の育児をしながら、週1、2回看護師として働くが、「最低賃金アップはいいこと。それに合わせて、他の時給や給与がすべて上がっていけばいい」と期待する。
和歌山市のNPO法人で働くパートスタッフの柳本裕美さん(45)も「物価高騰の中、(息子の)大学の授業料も上がり、最低賃金が上がる動きはありがたい」と歓迎する。同僚の40代女性も「小学5年生の娘に習い事をさせたいと思っていたので賃金が上がれば助かる。遠出の旅行も計画できるし、心の余裕もできる」と話した。
一方、企業にとって最低賃金が大幅アップとなることは、経営への重荷となることに加え難しい一面も含んでいる。
県内を中心にレストラン、ホテル業などを展開する「信濃路」の冷水康浩社長(51)は「習熟度によって段階的に時間給や給料が上がるというキャリアパスプランがあり、最低賃金を引き上げるだけにとどまらず影響が大きい」と話す。
最低賃金が上がるたびに雇用構造やキャリアのあり方も改めて見直す必要が生まれるといい、原材料費の高騰などへの対応に加えて今後の模索が必要となりそうだ。
和歌山社会経済研究所(和歌山市)は今月下旬から県内2000社に対して行う景気動向調査に、最低賃金への対応を聞く特集アンケートを盛り込むことにした。賃上げが連続して行われる中、最低賃金の引き上げで企業はさらに厳しい状況になると考えられるためという。1~3月期の調査では「今後の賃上げ余力の有無」を聞いた項目で6割以上の企業が「全くない」「あまりない」と回答した。特に製造業では2年前の54・7%から69・8%に上昇している。
増田浩事務局長は「県内に多い中小企業では価格転嫁も難しく、経費上昇分を吸収できるかが課題となる。また、いわゆる『年収の壁』により従業員の労働時間の調整が必要になるなど、労働力確保面でも影響を受けるはず」と予測する。【加藤敦久】
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