2024年の子どもの自殺者数は、小中高生が529人で過去最多となった。新型コロナウイルスの流行下で増加に転じた全体の自殺者数が減少する一方で、子どもの自殺は20年以降500人前後で高止まりしている状態だ。NPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」代表などとして長く自殺対策に取り組んできた清水康之さんは、「日本社会の未来が危機に瀕(ひん)している」と深刻さを訴える。【聞き手・堀井恵里子】
SNSで失われる安心
――子どもの自殺者数の高止まりをどう受け止めていますか。
◆日本社会は極めて深刻な状況に陥っています。年間500人ということは毎週10人ずつ亡くなっているということです。亡くなる子の他にも、自殺未遂の子や、「死にたい」「消えたい」と思う子も大勢います。
1990年代前半くらいから、自殺者数は増加傾向にあり、一気に加速したのがこの数年です。自殺の要因は単純ではありませんが、社会的な背景としては、交流サイト(SNS)が普及して他者の目を常に気にせざるを得なくなり、安心できる時間や人との関係性が失われていく中で、子どもの危機が加速している一面があると思います。
子どもは社会の未来そのものなので、日本社会の未来が危機に瀕しているとも言えます。
社会の危機感が圧倒的に足りない
――国の対策は進んでいるのでしょうか?
◆今年6月に自殺対策基本法が改正されて、子どもの自殺対策が強化されることになりました。子どもの支援においては学校と地域の連携不足が大きな課題となってきましたが、これを解消するため、今後はこども家庭庁と文部科学省、厚生労働省が緊密に連携協力を図ることになります。全国の自治体でも、学校、児童相談所、医療機関、民間団体など子どもに関わる組織が、守秘義務のもとで情報を共有し、連携する協議会の設置が26年度から可能となります。
ただ、子どもが「死にたい」「消えたい」と思わずにすむ社会を作るという意味では、対策がまったく足りません。子どもの自殺対策を進めるための国や自治体の予算も人も足りませんし、何より、この問題に対する社会の危機感が圧倒的に足りないと感じています。
「かくれてしまえばいいのです」という居場所
――ライフリンクではSNSやメールなどでの相談に加え、「かくれてしまえばいいのです」というオンラインの居場所事業を昨年から始めました。この世から消えたいと思った時に「消えてしまわなくても大丈夫、隠れてしまえばいいのです」と呼びかけています。
◆「死にたいくらいつらい気持ちになったらぜひ相談して」と、私たちはずっと子どもたちに呼びかけてきました。ただ、実際はライフリンクもそうですし自殺防止の相談窓口のほとんどがパンク状態で、相談したくてもつながらないのが現状です。
そこで、相談できるか否かの二択ではなく、仮に相談につながれないとしても「死にたい」気持ちを抱えた子が「ここにいていいんだ」「生きていていいんだ」と思えるような空間を作ろうと、ネット上であればそれが作れると、絵本作家のヨシタケシンスケさんの全面協力を得て立ち上げたのが「かくれてしまえば……」です。
このサイトは、相談なんてしたくないと思っている子どもにとっても、安心できる場であることを目指しています。「この世」で生きるのがしんどいからといって「あの世」に行く必要はない、自殺する以外の具体的な選択肢として「その世」を作ったつもりです。
「ノーマークの子」が多く亡くなる
――代表理事を務める、一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」は、子どもの自殺の要因を分析しています。これまでにどんなことが明らかになりましたか。
◆例えば、実は「ノーマークの子」が多く自殺で亡くなっているということです。
これは23年度、こども家庭庁の委託事業として行った分析の中で明らかになったことですが、各都道府県の教育委員会が保有する報告書をもとに過去5年間に自殺で亡くなった小中高生272人の学校の出席状況を分析したところ、「以前と変わりなく出席」が44%にも上りました。「不登校または不登校傾向」が10%なので、その4倍以上です。
自殺の多くは「まさか」という状況の中で起きていることを、あらためて実感しました。
――今年出した要因分析の報告書では「生きている子どもたちの声を聞く意義」も指摘しています。
◆自殺で亡くなった子どもの情報からは分からないことがあります。例えば、幼少期の体験や自殺行動に至った時、死のうと思った時の感情、どういう支援があれば生きる道を選べたかということです。対策や支援においてはそうした情報も重要であるため、今回は亡くなった子どもだけでなく、ライフリンクが行っている相談に寄せられた子どもたちの声なども分析しました。家庭の悩みを抱えている子が多いことや、自己嫌悪や自責の念を抱えている子どもが多いことなどが分かってきました。
「私たちの日常と子どもの自殺は地続き」
――私たち、大人にできることは何でしょうか。
◆まずは、子どもの自殺について事実を知ることです。事実を知れば、私たちの社会でいま起きていることに驚がくし、これは何とかしなければと危機感を持つ人が増えると思います。
逆に言えば、そうした危機感を持つ人がもっと増えないと、今以上の対策を進めることは困難です。
子どもは社会の未来そのもので、日本社会の未来が危機に瀕しているのだということ。私たちの日常と子どもの自殺の問題は地続きです。一人でも多くの大人がこの問題に関心を持つことが、社会的な対策を推し進める原動力になります。
しみず・やすゆき 1972年東京生まれ。NHKディレクターを経て、2004年にNPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」設立。自殺対策で内閣府参与も務め、19年に一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」を設立、代表理事に就任。
不安や悩みの主な相談窓口
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