人気チームの試合となると、チケットはなかなか手に入らない。試合会場に行けば、セットが終わるたびにトイレに長蛇の列ができている――。
バレーボールSVリーグの試合会場では、そんな光景がしばしば見られる。バレー人気が高まる一方、会場の収容能力や設備が十分ではなく、ファンのニーズに必ずしも応えられていないのが現状だ。
ファン層の拡大と安定したチーム運営のために、ホームアリーナの整備は避けて通れない課題となっている。【深野麟之介】
「後回しになっている」
「お手洗いの問題、キャパ(キャパシティー)の問題。いろいろな面で迷惑をかけているし、選手に対しても申し訳ない状態です」
SVリーグ男子・大阪ブルテオンの久保田剛代表はこう語る。
大阪Bは国内屈指の伝統と人気を誇り、レギュラーシーズン(RS)優勝を果たした2024~25年はホームゲーム全試合でチケットが完売した。平均来場者数は3586人でリーグ3位となった。
拠点とする大阪府枚方市のパナソニックアリーナは1965年に建設され、長く地域住民らに親しまれてきた。だが、座席数は約3000と小規模で、トイレの数も限られる。
屋外に仮設トイレを置くなどの対応を取ったが、SVリーグ初年度の24~25年シーズンも試合開始前やセット間には常に長い列ができた。
より多くのファンが観戦できる場所を求め、大阪Bは7000人規模の座席数がある大阪市内のAsueアリーナ大阪、おおきにアリーナ舞洲も一部ホームゲームの会場とした。
25~26年シーズンの開幕戦で、大阪Bはホームにサントリーを迎える。ただ、会場は25年に神戸市に開業したジーライオンアリーナ神戸。バスケットボールBリーグ・神戸ストークスの拠点で、約1万人を収容する。
久保田代表は危機感を口にする。
「もっと早く日程が調整できていれば、大阪のアリーナでできたかもしれない。自分たちのアリーナを保有する、あるいは保有せずとも(使用の)優先権を持つ。それを実現しているのがBリーグで、(バレーは)それが後回しになっている」
「本当に苦労しています」
24~25年シーズンのSVリーグ男子でチャンピオンシップ(プレーオフ)を制し、初代王者となったのはサントリー。人気、実力ともに大阪Bに比肩し、平均来場者数はトップの5494人に上った。
ただし、アリーナの現状について聞くと栗原圭介ゼネラルマネジャー(GM)は表情を曇らせる。
「他競技もありますし、アリーナ(の確保)に関しては本当に苦労しています。会場を取り合う形になってしまっています」
サントリーは大阪府箕面市に所有する体育館を練習拠点としているが、公式戦ができる規模ではない。
そのため、箕面市とともにホームタウンとする大阪市内のAsueアリーナ大阪、おおきにアリーナ舞洲、エディオンアリーナ大阪の3会場でホームゲームを開催した。
これらの会場は大阪Bや女子の大阪マーヴェラスも使う。さらに、おおきにアリーナ舞洲はBリーグ1部(B1)の大阪エヴェッサが以前から拠点としている。
24年10月にスタートしたSVリーグは将来的な完全プロ化を掲げ、参入に必要な条件を設けるライセンス制度を導入した。
ホームアリーナについては、観客席が5000以上あり、ホームゲームの8割以上を行える施設を30年までに確保するよう求めている。
飲食や会話ができるラウンジや十分な数のトイレの設置など、設備に関する基準も細かく定められている。
大阪Bのパナソニックアリーナは、この水準に満たない。サントリーのようにいくつかの会場を回ることも条件から外れてしまう。
SVリーグの大河正明チェアマンは5月の記者会見で、アリーナの確保について「自分たちでアリーナを所有するほか、既存の施設の指定管理業務を担い、イベントの割り当てに関わる方法がある」と説明した。
「新造は簡単じゃない」
条件のクリアに向けて時間的な猶予はあるが、サントリーの栗原GMは「ハードルは高い」と受け止める。
大阪Bの久保田代表も同意見だ。「大阪のような大都市では、アリーナを新しく造るのは簡単じゃない。方針に関してはまだ決まっていないが、時間はそんなにない」
一方で、バレーには、SNS(交流サイト)の拡散力に後押しされ、国内やアジアでの人気を拡大している強みがある。
久保田代表は力を込める。
「『アリーナ問題』さえクリアできれば、バレーはもっと成長する可能性がある。強みを伸ばしていくことで、もっと花開く可能性はあるんじゃないか」
過渡期にある日本バレー界の「ポテンシャル」をさらに引き出すための模索が続く。
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