国内最大の暴力団の山口組(神戸市)が分裂してから27日で10年になる。対立抗争の終結は見通せないままだが、4月には山口組が一方的に「終結宣言」を兵庫県警に伝達。それ以降、抗争事件は起きていない。ただ警察当局は、長期の抗争で疲弊した組側の思惑があるとみて、警戒を続けている。
山口組は2015年8月に分裂した。傘下の直系組長ら13人が離脱。神戸山口組(兵庫県稲美町)を結成し、トップには当時の山健組の井上邦雄組長(77)が就いた。山口組の篠田建市(通称・司忍)組長(83)の出身母体の弘道会の組織運営に反発したとされる。
その後、神戸山口組からは、任侠(にんきょう)山口組(後に絆会に改称、大阪市)と池田組(岡山市)がそれぞれたもとを分かった。
分裂後の対立抗争の激化を受け、20年1月以降、山口組と分裂後の3団体は、暴力団対策法に基づき、各地の公安委員会から特定抗争指定暴力団に指定された。警戒区域に指定された自治体では、組事務所への立ち入りや5人以上の組員が集まることなどが禁止されている。
全国的に暴力団勢力が減少する中で、山口組も15年末に準構成員らを含めて約1万4100人だったのが、24年末は約6900人に減少。神戸山口組の減少幅はさらに激しく、15年末の約6100人から24年末には約320人にまで減り、勢力差は大きく広がった。絆会と池田組はともに約140人にとどまる。
そうした中、今年4月、山口組がある動きを見せた。抗争を終結する意向を示した宣誓書を兵庫県警に提出した。警察幹部は宣誓書を出した山口組には主に二つの事情があるとみる。
組織弱体化に危機感
一つは、特定抗争指定が大きな負担になり、解除されたいとの思惑があるとの見方だ。事務所の立ち入り禁止などの活動制限により、組織が弱体化したと危機感を募らせているとみている。
抗争は資金面でも負担になっているとされる。対立する組幹部らを襲う「ヒットマン」ら実行役が刑務所で服役している間は、組が家族の金銭的な面倒を見ているとみられる。襲撃に備えて組長の護衛も増やさなければならず、移動のたびにその費用が必要という。
警察関係者は「特定抗争指定はやはり効果がある。早々の解除は今のところ考えていない」とする。
組長の代替わり想定か
二つ目は、高齢の篠田組長からの代替わりを想定した動きという見立てだ。組長が交代する前に抗争を終結させたいとの思いがあるとみている。
警察庁によると、4団体が関係した抗争とみられる事件は15年以降、今月25日までに117件あった。組幹部が拳銃で撃たれるなど計11人が死亡した。
宣誓書が出された4月以降、抗争事件は起きていない。今年1月に神戸市内の神戸山口組の井上組長宅で車2台が燃えたのが直近の事件だ。
しかし警察当局は終結への道筋は見えていないとする。山口組の「終結」宣言に対して、神戸山口組、絆会、池田組は表立って反応していない。
暴力団は暴力を見せつけて影響を及ぼすのが行動原理とされ、いつ暴力的な事件を起こすか分からない。事件が起きれば、一般人が巻き添えになる恐れもある。兵庫県警の捜査関係者は「危険性は変わっていない。警戒を怠らない」としている。
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