介護を終えたAさんを待ち受けた現実
Aさん(50代女性)は地方都市で暮らす独身の女性です。
先月、父親が亡くなり、四十九日の法要を終えました。ようやく落ち着いてきたため、これから相続の手続きを進めようとしています。母親は5年前に亡くなっており、法定相続人はAさんと3歳年上の兄の2人だけです。
Aさんは自宅から程近い実家で暮らす両親の面倒をここ数年ずっと見ていました。仕事の傍ら介護に追われて自分の時間もほとんど取れない日々でした。
一方、Aさんの兄は父親と不仲で、以前は母親が間を取り持って何とか連絡がついていたものの、母親の死後、音信不通になってしまいました。父親の葬儀にも現れず、現在は住所も連絡先も不明。親戚の誰も連絡を取れていない状況です。
父親が他界し、実家の一戸建て住宅は空き家となりました。そのまま放置すれば固定資産税や草刈り費用が無駄にかさむので、早急に売却をしたいとAさんは考えています。
相続登記がなければ家は売れない
父親名義のままでは不動産を売却できません。そこで、Aさんは実家を自分名義に変更するため、地元の司法書士に相談しました。
そのときに初めて、法定相続人である兄の協力なしに相続の手続きを完了できないと知り、がくぜんとします。
被相続人(亡くなった人)が遺言で遺産の分け方を指定していない場合、法律上は相続人全員で話し合って遺産を分割する必要があります。長年連絡を取っていなくても相続人であることに変わりはなく、相続権は失われないのです。
当然、兄を除外してAさんだけで不動産の相続登記を済ませることはできません。遺産分割協議(遺産の分け方の合意)は相続人全員の参加が前提であり、一人でも欠けていれば無効になるからです。
介護を一手に引き受けていたAさんの兄に対する思いは複雑でしょう。ですが、法律上、兄は相続人なのです。
兄を見つけ出せなければどうする…
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