<分析>佐藤健が企画ドラマ「グラスハート」で示した方法論 キラキラ×規格外で世界に挑む

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「グラスハート」
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 2025年秋に日本上陸10周年を迎えるNetflix。その近年における特徴の一つが、俳優陣の領域の拡大だ。「忍びの家 House of Ninjas」は賀来賢人が原案・主演を務め、「イクサガミ」(11月配信予定)では岡田准一がプロデューサー、アクションプランナー、主演の3役を担当。

 そして7月31日に配信開始される「グラスハート」(全10話)は佐藤健が企画・共同エグゼクティブプロデューサー、主演を務める。彼が20代前半の頃に若木未生の原作小説に出合い、映像化を夢見ていたという念願企画であり、気合の入りようがすさまじい。

「グラスハート」
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バンド演奏も吹き替えなし、アルバムも

 佐藤は自らNetflixに企画を持ち込む前、いわばパイロット映像(製作にGOを出すか判断するためのテスト映像)を自主的に製作したという。脚本開発や各打ち合わせはもちろんのこと、キャスティングやスタッフィングにも携わり、アニメーション「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」を手掛けた脚本家・監督の岡田麿里を脚本に抜てき。

 さらに驚くべきは、音楽面。「グラスハート」は、「天才作曲家に見いだされた新人ドラマーがバンドを結成する」物語だが、野田洋次郎(RADWIMPS)や川上洋平([Alexandros])といった名だたるミュージシャンが携わった楽曲群を佐藤健、宮崎優、町田啓太、志尊淳といったバンドメンバー役の俳優陣が吹き替えなしで演奏し、配信日に合わせて「TENBLANK」としてデビューアルバムもリリースする。1年以上の楽器練習、8カ月にも及ぶ長期撮影、完成まで2年以上の月日を経て、迫力のライブシーンの数々を具現化した。

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ライブシーンは野外でエキストラ5000人

 そのライブシーンには最大5000人ものエキストラを動員し、12台ものカメラを導入したそうで、最終第10話はほぼライブで構成されている異例の内容。

 かつ、最終話だけでなくほとんどのエピソードに大掛かりなライブシーンやレコーディング風景が盛り込まれており、常軌を逸したレベルの献身がうかがえる。

 例えば野音こと日比谷野外音楽堂を使用するなど、ライブシーンはほとんどが野外フェス。他にも高層ビルの屋上で熱唱したり、海上の船で演奏したりとスケールの大きな映像が続き、全編にわたって驚かせ続け、楽しませてくれる。

 なお、菅田将暉や山田孝之、高石あかりといった面々もミュージシャン役で登場し、TENBLANKの面々とセッションを繰り広げている。

「グラスハート」
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「ラブ」にも注力 人物の思い交錯

 では「グラスハート」が音楽のみのドラマなのかと言われると、確かに見応えはすさまじいもののそれは異なるだろう。本作は「青春音楽ラブストーリー」を自称しており、ラブの部分にも重きが置かれている。

 天才作曲家の藤谷(佐藤)にドラマーの朱音(宮崎)がひかれていくドラマを主軸に、恋愛や執着、親愛、親子愛等々、さまざまな人物の思いが交錯していくのだ。

 佐藤はマスコミ向けの資料内で「日本の実写作品も世界中に愛されるものになってほしい」「王道のエンターテインメントを、照れずに堂々とやりたい」とコメントを寄せており、彼が対世界向けに見いだし、実践した方法論としても興味深い。

「グラスハート」
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日本のいま スタイリッシュに

 前述した「忍びの家」や「イクサガミ」が忍者や侍といった日本古来の題材をストロングポイントとして捉えているのに対し、佐藤をはじめとする製作陣は意識的に“日本のいま”のカルチャーを採り入れたように感じられるのだ。

 オリジナル楽曲だけでなく、ワールドワイドにバイラルヒットをたたき出しているYOASOBIや宇多田ヒカルのカバーを盛り込み、インバウンドで注目度が増しているであろう渋谷エリアのMIYASHITA PARKや渋谷ストリーム等々、ロケーションにもその意識が感じられる。

 ザ・日本的な要素を入れるにしても、川越氷川神社をスタイリッシュに切り取っており、監督を務めた柿本ケンサク(『恋する寄生虫』)や後藤孝太郎(『全裸監督 シーズン2』)の映像センスも相まって、SNS時代の感性が流れている。

「グラスハート」
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新たな「王道」を海外に

 さらに特筆したいのが、俗にいう「キラキラ映画」のフォーマットで勝負に出たということ。漫画大国である部分もあるだろうが、日本の実写映画市場はなかなかに独特であり、製作費がそこまで掛からずに国内でリクープ(資金の回収)できる青春恋愛映画の割合が高い(今でこそ一時期よりは抑えられたものの、その特徴は健在だ)。

 これらのキラキラ映画は海外にはあまりニーズがなく、かといって国内の売り上げでビジネスとして成立する面もあり――という見方が大半だっただろうが、わざわざその部分を「王道」と解釈して突き進む佐藤の選択もまた、“いま”感のあるものだ。

「グラスハート」
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究極のローカライズがグローバルに

 Netflixほか動画配信サービスの台頭により、日本の映像カルチャーはほぼリアルタイムで海外に届くようになった。プラットフォームとは言いえて妙だが、例えばアニメ作品がタイムラグなしに国外でも視聴できるなど、日本の音楽が容易に国境の壁を超えられる環境が整ったいま、内向きに思えていた題材を再定義すること――。

 一見すると“ベタ”にも思える「グラスハート」はなかなかどうして「地域化(ローカライズ)を突き詰めることがオリジナリティーを強め、逆説的にグローバリゼーションにつながる」という近年の映像エンタメの勝ち筋の一つにも合致している。国内のヒットは確定だろうが、海外で本作がどれくらいの熱を生み出せるのか、注視したい。(SYO)

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