西村和子・選

西村和子・選

再診のハンカチ固く握り締む 宮崎市 境雅子 <評>医師の前で診断を聞く時、手のひらまで汗がにじむ。緊張感と不安が伝わってくる。結果はどうだったのだろう。 少年もうつむき帰る極暑かな 河内長野市 滝尻芳博 <評>暑さのせいか、試合に負けたか、普段は元気な少年の姿に読み手の心もうちひしがれる。 電線のカラス口開く暑さかな 豊田市 松本…...
事件の裏の人間模様/「ご遺体」と向き合うプロ=西上心太

事件の裏の人間模様/「ご遺体」と向き合うプロ=西上心太

 城山真一『金沢浅野川雨情』(光文社)は、金沢の茶屋街が舞台のミステリーだ。当地で人気と実力を誇るベテラン芸妓(げいぎ)なつ江の遺体が発見され、強盗殺人が疑われる。  本書の最大の特徴と魅力は、殺人事件を縦軸にしながら、その捜査内容があまり描かれない点にある。第1章の視点人物は水引細工職人の中年男だ。離婚経験のある彼は店主の母に頭が...
長生炭鉱の遺骨調査・収容=安田浩一(ノンフィクションライター)

長生炭鉱の遺骨調査・収容=安田浩一(ノンフィクションライター)

国は黙殺 責任担う「刻む会」  周防灘は鏡面を張ったように穏やかな表情を見せている。だが、床波(とこなみ)海岸(山口県宇部市)の浜辺から沖合に目をやると、妙な“違和感”に襲われて気持ちが波立つ。海面から突き出た2本の円筒――海中に土管を埋め込んだかのような不自然な光景は、この海の底に、かつて炭鉱があったことを示している。  1914...
/434 上田岳弘 倉田悟・絵

/434 上田岳弘 倉田悟・絵

「ええ、もちろんそう言うでしょう。そう言うことになっていますから。この世界はすぐに消えて行く泡沫(ほうまつ)としての世界だった。あなた方のちゃんとした世界とは真逆の存在です。それが、ここまで生き残り、発展していることす...
第12期会津中央病院・女流立葵杯三番勝負 挑戦者・ 藤沢里菜女流本因坊-上野愛咲美女流立葵杯 第2局の5

第12期会津中央病院・女流立葵杯三番勝負 挑戦者・ 藤沢里菜女流本因坊-上野愛咲美女流立葵杯 第2局の5

藤沢の静かな勝負手  午前中は珍しく髪をおろしていた上野だが、午後からはいつものようにポニーテールに変わっていた。  本譜は両者、時間を使って慎重に打ち進めている。序盤で時間を使わずにいたのは、中盤で投入するためだった。白48のブツカリに15分、黒49のコスミツケに18分、黒59のトビに10分、白60のハネに16分。黒63から藤沢は...
第84期名人戦A級順位戦 近藤誠也八段-千田翔太八段 第3局の2

第84期名人戦A級順位戦 近藤誠也八段-千田翔太八段 第3局の2

18分遅れで対局開始  遅刻した場合、特別な理由がなければ遅刻の3倍が持ち時間から引かれるが、電車の遅延による遅刻はそのままの時間が引かれる規定である。近藤は電車遅延証明書を記録係の野田澤彩乃女流初段に渡し、持ち時間から遅刻した13分が引かれることになった。  まだ少し肩で息をしている近藤を気遣ったか、千田は駒箱を開けるまでにも少し...