
プラスチックによる環境汚染を根絶する条約について話し合う政府間交渉委員会が5日、スイス・ジュネーブで始まる。最大の焦点の一つは、プラスチックの生産段階の規制に国際社会が踏み込めるかどうかだ。
東京農工大の高田秀重名誉教授(環境汚染化学)は生産に広い規制の網をかけるべきだと主張する。最新の研究成果に、そう訴える理由があるという。【聞き手・高橋由衣】
<主な内容>
・海へ陸へ 漂い続ける有害物質
・人の血中から
・プラ汚染、悪影響は今後顕在化する恐れ
・用途問わず幅広く生産規制を
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プラ条約交渉、ささやかれる「最悪のシナリオ」 あの国も波乱要素
「目に見えにくい問題」も注目
プラごみ問題は、鼻にストローが刺さったウミガメの写真がネットで話題になったことをきっかけに、目に見える被害として国際的に危機意識が広がりました。
さらに今注目されているのが、劣化して5ミリ以下に細かく砕かれたマイクロプラスチック(MP)による「目には見えにくい」問題です。
プランクトンや魚がMPを誤って食べると、食物連鎖の上位にいる海洋哺乳類や鳥、さらには人間にも濃縮されていきます。この「生物濃縮」を通して、プラスチックに含まれる有害化学物質が動物の体内に溶け出すことが明らかになってきました。
石油を原料とするプラスチックの素材(ポリマー)は主に、ポリエチレン▽ポリプロピレン▽ポリ塩化ビニール(塩ビ)▽ポリスチレン▽PET――などに分けられます。そこに、用途に合わせて可塑剤や紫外線吸収剤、難燃剤などの添加剤が加えられます。こうしてできた、軽くて丈夫なプラ製品に含まれる化学物質は1万3000種類以上にのぼります。
このうち3200種類以上で有害性が懸念されています。毒性が高く、環境中に残りやすい化学物質を規制する「ストックホルム条約」などで管理されているのは一部に過ぎず、多くは統一された規制がないまま使用されています。さらに、有害性が十分に検討されていない物質も6000種類以上あります。
海へ陸へ 漂い続ける有害物質
プラスチックはその丈夫さゆえに環境中で自然分解されにくい。しかも、原油から作られるため、油に似た物質とくっつきやすい特徴があります。有害な物質を吸着して長期間、海や陸を漂い続けます。
私は2005年、世界中の研究者やボランティアに呼びかけ、各地の海岸で見つかるポリマーの粒(ペレット、直径数ミリ)を集め、そこに含まれる化学物質の分析を始めました。これまで離島や…
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