都議選期間中は夏日が続いたが、候補者たちの戦いもヒートアップしてゆく。
選挙戦前半の6月17日、荻窪駅前に小池百合子都知事が姿を見せた。自身が特別顧問を務める都民ファーストの会公認候補の茜ケ久保嘉代子さん(49)の応援のためだ。
記者がカメラを片手に候補者に密着した動画連載「民意をこの手に」。全6回の予定で、選挙のリアルに迫ります。
1回目 ある税理士の挑戦
2回目 自民ベテランの苦悩
3回目 国民民主選んだ元自民区議
4回目 自民VS「自民」
5回目 「私が優勢?フェイクだ!」
6回目 選挙とは 政治とは
マイクを握ると、5月に公表した水道基本料金の無償化策を紹介し、聴衆にこう呼びかけた。
「都民ファーストの会のみなさま方からの強いご要望によるものでございまして、どうぞ、水道の蛇口をひねるときには茜ケ久保嘉代子と思い出して」
「お金を使わない」という訴え
水道基本料金の無償化は、都内に住む記者にとってもありがたい。だが、この時期の決定は、選挙の票目当てのバラマキとも思えてしまう。
「このままでは東京都の財政が30年もたない。お金の使い方が激しいんです。使い過ぎなんです」
小池知事の応援演説の4日前の13日の阿佐ケ谷駅前で、再生の道公認候補の小澄健士郎さん(47)がこう訴えていた。
日に焼けて、表情が引き締まっている。演説を終えた小澄さんに声をかけると、各党の候補者が減税や給付を訴える中で「お金使わないと言っているのは私だけじゃないか」と笑った。
石丸氏の名前は出さず
「お金なくなってないかっていう危機感、疑問を持っている方って一定数いらっしゃるんじゃないかと思うんです。その視点がないと、将来が危険過ぎる。ポピュリズムに走らないと当選できない」
ぎこちなかった演説は格段にうまくなっていたが、知名度のある石丸伸二代表の名前を言わず、自身が税理士であることを強調していた。理由を聞くと、同じ選挙区に出馬した再生の道の他の2人の候補との差別化を図るためだと率直に認めた。
「票が割れます。気持ちは無所属新人」
選挙戦の厳しさを感じ取っているように思えた。
玉木氏の隣でマイクを
山尾志桜里元衆院議員の公認問題などで支持率上昇が止まった国民民主党。6月15日の阿佐ケ谷駅前で、党公認候補の国崎隆志さん(43)が、応援に駆けつけた玉木雄一郎代表の横でマイクを握った。
演説は、選挙事務所を訪ねてきたという高校生とのやりとりの紹介から始まった。高校生にこう言われたという。
「ぼくは、国民民主党さんが103万円の壁を引き上げる、国民に寄り添った政策をやっていたので期待を寄せています。国崎さん、どうかこの社会を立て直してください」
「支持者が戻って来ているか」
聴衆は100人を超えていた。玉木代表が演説を始めると、さらに膨れ上がった。
党勢が回復しつつあるのだろうか。国崎さんは「(山尾氏の騒動の件は)もうあんまり気にならなくなりましたね。収まったのかなと」と言った後、表情を引き締めた。
「だけど、それがちゃんと(投票してくれる支持者として)戻って来ているかどうか分からないですね」
大物議員とともに
一方、自民党公認候補の早坂義弘さん(56)の元には連日、大物議員らが応援に駆けつけていた。
6月16日の高円寺駅前で街頭演説では、小林鷹之・元経済安全保障担当相が、「ミスター防災」と書かれたたすきをかけている早坂さんの横でマイクを握り、聴衆の笑いを誘った。
「ミスター防災ですよ。みなさん、なかなか自分のことをミスター何とかと言わないですよね。言いにくいじゃないですか」
「だまされないで」
このころ、早坂さんが選挙戦をリードしているとの見方が広がりつつあった。そう伝えると、早坂さんが気色ばんだ。
「にわかに考えにくいですよ。だって前回、最下位(当選)ですよ。それで、(自分にも政治資金収支報告書への)不記載があって、自民党逆風でね、情勢がいいなんて、それこそフェイクニュースじゃないですか。だまされないで、マスコミが」
選挙戦は6月21日に最終日を迎えた。私は荻窪駅前で、再生の道の小澄さんと自民党の早坂さんが鉢合わせる場面を目撃した。顔を突き合わせ、がっしりと握手を交わした。早坂さんが「お互いの幸運を」と言うと、小澄さんが「もちろんです」と応じた。
そして、白熱した選挙戦は幕を閉じた。【大場弘行】
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