
日本への関税引き下げの代わりにトランプ米大統領が勝ち取ったと誇る5500億ドル(約81兆円)の対米投資。「財政投融資(財投)」と呼ばれる政府系金融機関による金融支援で行われる。実は、トランプ氏と親密で、景気浮揚にこだわった安倍晋三政権(第2次)下でも事業規模拡大のために財務省が多用した手法だ。「お家芸」がトランプ氏に「刺さった」ようだ。
「財投」は「出融資枠」
「日本は高い関税を払いたくないので、我々に5500億ドル渡した。前払いのようなものだ」。トランプ氏は7月24日、ワシントンで記者団に誇らしげに語った。
日本政府関係者によると、米国に約束した「5500億ドル」の実態は、民間企業が自らリスクをとって実行する米国事業に対し、国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)が行う出資や融資、融資保証などの利用限度額だ。
例えば米国に日米企業が半導体や医薬品などの工場を建設して生産を始める事業などへの利用が想定される。融資なら必要資金を低利で貸し出し、融資保証なら民間金融機関から借り入れやすくなるよう公的保証をつける。
日本のリスクは限定的か
ただ、企業が政府による金融支援をどこまで活用するかは分からない。日本の経済官庁幹部は「日米企業が、損失する可能性の高い無謀な事業に手を出す可能性は極めて低い」と話す。そして、事業が頓挫して返済不能となる事態が起きない限り、日本政府の負担は生じない。損失が発生するリスクが比較的高いのは出資だが、「トランプ関税」を巡る日米交渉を担当した赤沢亮正経済再生担当相は、5500億ドルのうち出資が占める割合は「1~2%」に限られると説明する。
数少ない出資事業で利益が出た場合の「取り分」については、米国9割、日本1割という「不平等」ぶりも指摘されている。ただ、こうした事業の利益は「自らの出資割合に応じて受け取る」(日本政府関係者)のが資本主義の原則だ。
仮に不平等な利益配分が本当に行われた場合でも、事業が成功して利益が出る限り、日本からの出資金は傷つかない。
財務省伝統の「お家芸」
金額を大きく見せつつ、日本の負担を最小限に抑えようとする今回の手法は、日本の財務省が「永田町対策」で長く得意としてきた。国民にアピールするため、…
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