
空爆はやまず、市民の命が次々と奪われていく。食料は底を突き、子どもたちが痩せ細っている。パレスチナ自治区ガザ地区の人道危機は、すでに限界に達しつつある。
それでもイスラエルでは、ガザの惨状に心を寄せる声は広がらない。共感は、なぜ届かないのか――。
ヘブライ大学のエラン・ハルペリン教授(紛争心理学)が、その心理的背景を語った。
このインタビューでは、前半でイスラエル社会におけるガザへの共感の欠如に焦点を当て、後半ではその背景にある歴史的トラウマや心理構造を読み解いていきます。
届かない「隣人の苦しみ」
――ガザ側の死者が6万人を超え、餓死者も連日のように報告されています。それでもイスラエル国内では、ガザの人道危機を深刻に受け止める声は少ないように思います。
◆イスラエルでも、ガザで何が起きているのか、また自国が背負う道徳的な代償について議論される機会は増えています。
ですが、2023年10月のイスラム組織ハマスによる越境攻撃以降、多くの人が強いトラウマ(心的外傷)と脅威を感じ、パレスチナの状況に心を向ける余裕がないのです。
イスラエル国内の一般的な認識は、「ハマスが人質をすべて解放すれば、戦争は明日にでも終わる。そうなれば、ガザの人々がこれ以上苦しまなくて済む」というものです。
しかし、ハマスは人質を解放せず、依然としてガザを支配しています。軍事的圧力の継続はやむを得ないとの考えが主流です。
自国民である人質に意識が集中するあまり、ガザ住民への共感が後回しにされています。
ハマスの攻撃が刻んだ「心の傷」
――イスラエル軍の攻撃によってハマスは弱体化しましたが、トラウマや脅威の感覚は消えていないのですか。
◆間違いなく、今も多くの人が深いトラウマを抱えています。
外か…
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