冤罪(えんざい)の根源には踏み込まず――。「大川原化工機事件」で警視庁が7日に発表した検証報告書では、肝心な点が未解明のまま残された。捜査に疑問を持ってきた捜査員、ぬれぎぬを着せられた大川原側からは厳しい目が向けられている。
あらぬ疑いをかけられた大川原化工機は検証報告書の公表後、記者会見を開いた。求め続けてきた検証結果だったが、大川原正明社長(76)が「個人個人の責任に深く突っ込んでいない」と語るなど不満を指摘する声が相次いだ。
大川原側代理人の高田剛弁護士は、警視庁が冤罪の原因を「捜査指揮系統の機能不全」と結論付けたことに強い違和感を覚えたという。「事件が欲しくてたまらない管理官と係長が暴走し、無理な省令解釈を作って、大川原の従業員をだまして供述調書を取ったというのが事件の構図だ。警視庁に不都合な事実を検証し切れていない」と訴えた。
大川原社長とともに逮捕され、約11カ月間勾留された元取締役の島田順司さん(72)は任意の取り調べで「不正輸出はしていない」と何度も訴えたが、一度も調書にされなかった。隠し録音したボイスレコーダーには「なんで供述している通り書いていただけないのですか」と繰り返す様子が記録されている。
警視庁は今後、不正輸出事件で取り調べの録音・録画をする方針で、島田さんは「一歩進んだ」と評価した。一方で、再発防止策の全体像には「徹底、強化、充実など当たり前の言葉が並んでいるだけ」と失望を隠さなかった。
会見には、勾留中にがんが見つかり被告の立場のまま亡くなった元顧問の相嶋静夫さん(享年72)の長男(51)の姿はなかった。代わりにメッセージが読み上げられ、「我々が望んだ第三者を入れた検証にならずに遺憾。本事件でもはや警視庁、検察庁は国民の脅威になってしまった。深く反省し、国民の信頼を得られることを望む」とした。
大川原側が捜査の責任を問うために起こした訴訟では、3人の警部補が証人出廷して捜査を批判した。警視庁側は3人の証言を裁判で「壮大な虚構」と否定したため、大川原側が撤回を求めていた。検証報告書では「将来にわたって職員が自由に意見を述べることを萎縮させかねない点においても不適切」と撤回した。島田さんは「当たり前だ」と受け止めを語った。【遠藤浩二】
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