
一世を風靡(ふうび)した電機メーカーで泥沼の破産劇が繰り広げられた。
創業家、出版会社社長、元閣僚――。経営不振に陥っていた会社で次々にトップが交代した。その過程で300億円もの資金が外部に流出した疑いがあることが明らかになった。
社内で何が起きていたのか。誰もが「はめられた」と語る内実を追った。
<主な内容>
・ミシン卸問屋から電化製品で世界へ
・迷走の始まり
・「ミュゼ」、突然買収
・約300億円、社外に流出
大阪府東部に位置する大東市。幹線道路沿いに建つ本社は人の出入りがほとんどなく、多くの窓がカーテンで閉め切られていた。
社屋にはロゴマークが掲げられていた。円から飛び出した鋭い「F」の文字。生産体制を徹底して効率化し、安価かつ品質の良い製品でライバルを凌駕(りょうが)した栄光を表現したものだ。
「世界のFUNAI」
こう呼ばれ、かつて市場に名をはせた船井電機。しかし、往時の活気はもう感じられない。
ミシン卸問屋から電化製品で世界へ
船井は船井哲良氏(2017年に死去)が戦後間もなく創業した、ミシンの卸問屋が前身。高度経済成長期を経て、テレビやビデオをはじめとした低価格のAV機器の販売や、OEM(相手先ブランドによる受託生産)にかじを切り飛躍を遂げた。特に北米で高いシェアを誇り、最盛期は3500億円以上の売り上げを記録した。
そんな老舗企業に24年10月、激震が走った。創業家に近い取締役の一人が「準自己破産」を東京地裁に申し立てたのだ。
その日のうちに破産手続きの開始決定が出され、約500人の従業員全員に解雇が言い渡された。
準自己破産は社内の合意を経ずに役員単独で申請できる。大規模な会社でこの手法が取られるのは異例だ。背景には経営陣内の対立があったとされ、この申し立てで社内の混迷や多額の資金流出が明るみに出た。
異変が起きたのは、申し立ての3年半ほど前。中韓メーカーの台頭に伴い売り上げが低迷し、船井氏の死去後は事業承継も模索する中での出来事だった。
迷走の始まり
そこに現れたのが出版会社「秀和システム」(東京…
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