スポーツの判定を映像で確認する「ビデオ検証」が、学生などアマチュアにも波及してきた。判定を巡り、交流サイト(SNS)で“炎上”する例もあり、選手のためだけでなく、審判を守る視点からも注目を集めている。
800万円投じて導入
東京六大学野球連盟は今春、リーグ戦でビデオ検証を採用した。内藤雅之事務局長は「若手審判からの要望があった。できるだけ学生野球の見本になりたい。大学選手権や高校の大会、他のリーグの参考になれば」と話す。
対象はファウルかフェアか、セーフかアウトかなどの判定で、監督のみ要求できる。1試合1度に限るが、成功した場合は繰り返し可能で、延長戦に入ればもう1度要求できる。審判側は2分以内の判断を目指す。
今春は計40試合で13回要請があり、3回判定が覆った。
第1号として守備時の判定で検証を求め、セーフの判定がアウトに変わった東大の大久保裕(ひろし)監督はこう受け止めた。
「モヤモヤとしたところがない。際どいプレーはカメラの技術があるので(審判とも)互いにはっきりしておいた方がいい」
検証費用は人件費を含めて年間800万円。連盟で既に運用しているライブ中継用のカメラに加え、ボールの行方を追う専用カメラを1台、新たに導入した。
内藤事務局長は「予算は安くはないが、(判定が)はっきりするなら、やり続けた方が良いと思う。まだ回数が少ないので(効果は)分からないが、審判も緊張感を持っているように見えた。審判技術がこれから上がっていく一つの要素になるのではないか」と語った。
他リーグでも導入進む
仙台六大学野球連盟も今春から導入。スマートフォンを使う独自の方式で、固定映像のため、四つのベース周辺のセーフかアウトかの判定が対象だ。
SNS上で審判への中傷があったことがきっかけで、連盟の坂本健太審判部長は「明らかなミスジャッジをしてしまった場合、それを正す材料を得ることができる。審判員からは『やって良かった』『もはや選手より審判のためかも』といった声が上がった」と明かす。
関西六大学野球連盟は2024年度から、ライブ配信の映像を用いて本塁打かどうかの判定を検証するルールを設けたという。
誤判定がいつまでも…
プロ野球では10年、本塁打性の打球を判定する「リプレー検証」を導入した。審判員が必要と判断した場合のみが対象だったが、その後は対象が広がり、監督が検証を求める「リクエスト制度」が18年にスタートした。
アマチュア野球では21年に社会人の都市対抗大会でビデオ検証が採用された。当初は本塁打とエンタイトル二塁打の判定で疑義がある場合のみだったが、対象を拡大し、24年はプロ野球とほぼ同じ運用となった。
高校野球は導入に向けた議論を進めている。日本高校野球連盟の宝馨会長は過去の記者会見で「誤判定がいつまでもインターネットで流されてしまう時代なので、それを防ぐ意味でも試合のうちに解決しておいた方がいい」と検討する理由の一つに挙げた。
日本高野連は今夏の甲子園大会の開幕直前、SNS上などでの中傷を巡り、差別的な言動を控えるよう求める声明を発表している。
「名誉や尊厳、人権を傷つけ、心身に深刻な影響を生じさせるものであり、決して看過できません」と表明し、こうした行為が発生した場合は、法的措置を含む毅然(きぜん)とした対応を講じる方針を示した。
小学生の大会でも
サッカーでは、18年のワールドカップ(W杯)ロシア大会でビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)を導入した。
ラグビーW杯では03年のオーストラリア大会からテレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)を採用した。両競技とも基本的にはアマチュアには普及していない。
相撲では小学生の大会でビデオ検証を採用する地域もある。土俵下にタブレット端末を置き、「物言い」があれば確認する。
レスリングでは中高生の大会でも導入が進む。当初はタブレット端末で生徒が撮影したものを利用したが、現在はスロー再生できる本格的な映像で確認しようと、専門業者が入るケースもあるという。
各競技の関係者からは「ミスジャッジをゼロにすることは難しいので、費用はかかるが、有効な手段。誤審で人生が変わってしまう場合もある」「SNS上に動画が拡散する時代になり、トラブルを防ぐことにもつながる」との声が上がる。【長宗拓弥、高橋広之】
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