世界的な建築家の丹下健三が設計を手がけた「つり屋根構造」の旧香川県立体育館(高松市)について、香川県は7日、解体工事業者を決める入札を公告した。入札期間は9月2~4日。技術提案型の総合評価方式で、工期は2027年9月17日まで、予定価格は約9億2041万円としている。民間有志による公費負担のない活用提案については協議に応じない姿勢を示した。
民間有志は追加資料を提出
旧県立体育館は和船を思わせる特徴的な造形から「船の体育館」と親しまれてきた。県の解体方針に対して今年7月、建築家らの民間有志団体「旧香川県立体育館再生委員会」(長田慶太委員長)が公費負担なく耐震改修後にホテル事業などに活用することを提案した。さらに8月5日には、出資や事業参画を予定する企業らによる「意向表明書」や、専門家による構造性能評価の書面を県側に追加提出した。
出資意向表明書は出資額30億~60億円を想定した国内の不動産ファンドによるもので、参画意向表明書はホテル運営会社など4社によるものだという。
また、耐震性については、田中正史・東海大准教授が、「プレストレストコンクリート構造」のため大地震時にもコンクリートの剥落や倒壊を抑止することが可能▽つり屋根は留め具でケーブルに接合された1・1メートル四方の小さな板を並べて形成され、経年変化で留め具が壊れても屋根全体が崩壊する懸念はない▽過去の耐震診断では簡略化された構造モデルが用いられていたが、現在ではより精密な構造解析により効果的かつ合理的な耐震補強の提案が可能――などと指摘している。
一方、県側は同じ5日付で「旧県立体育館を所有し活用する具体的な主体や計画等は明確になっておらず、(解体手続きの)先延ばしはできない」などとする文書を再生委に送った。
長田さんは「安全性や具体性について追加資料を提出することは数日前から伝えており、その内容を見ずに入札を発表するのは、あまりにも残念な姿勢だ」とした上で、「保存・再生を求めるオンライン署名も2万筆を超え、関心は高まっている。あきらめずにあらゆる可能性を模索したい」と話している。
識者「活用しながら重文指定も」
旧県立体育館は、ケーブルで屋根をつり下げるつり屋根構造で柱のない大空間を実現している。タイプは異なるが、同年に完成した同じく丹下建築の代々木競技場(東京都渋谷区)=国重要文化財=と共に、日本最初期のつり屋根構造の建造物だ。
14年に耐震改修工事の入札が不調に終わり閉館。21年には県教委が「サウンディング型市場調査」で民間事業者から活用・改修案を集めたが、県の財政支援なしでは運営が難しいと判断して採用には至らなかった。県と県教委は23年に解体方針を表明。25年3月には解体工事費約10億円を盛り込んだ予算案が県議会で可決された。
7月に再生委が「解体という判断の前提条件が変わった」として再検討の協議に応じるよう県側に求め、近代建築史に詳しい松隈洋・神奈川大教授も「活用しながら重要文化財に指定されることも十分に考えられる。県はぜひ提案を尊重して、慎重に検討する時間をつくってほしい」と求めていた。【森田真潮】
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