(筑摩書房・3080円)
拷問、殺害、私刑、鎮魂、悔恨、戦争の顔
百聞は一見に如(し)かず。大部の著作よりも、数枚の写真が人の理解を深め、一枚の絵が心を動かす。本書は、タイトル通り、一人の兵士によるスケッチブックである。130枚のスケッチから伝わるメッセージは単純明快である。これが戦争の顔である、と。
「無名兵士」とあるが、著者は、戦場で見つかった身元不明の戦死者ではない。兵士の名は、砂本三郎。大日本帝国がアジア太平洋各地に送り込んだ、何百万人の青年たちの一人である。広島県三原市出身。砂本のスケッチブックは、戦場で描かれたものではない。戦争が深い爪痕をのこした自分の記憶を頼りに、砂本が1979年ごろから1981年にかけて自宅の机に向かって描いたものである。作成の時点で、砂本の身体は脳梗塞(こう…
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