トランプ米大統領が「平和の構築者」としての取り組みを加速させている。8日のアゼルバイジャンとアルメニアによる和平合意を仲介したほか、5月のインドとパキスタンの停戦や7月のタイとカンボジアの停戦も、自らの仲介の「成果」として強調。従来、ノーベル平和賞の受賞に執着しているとされるほか、和平に乗じて経済的な利益を得る狙いもありそうだ。
「私がここ(ホワイトハウス)に来た時、世界は火の海だった。たった6カ月でほぼすべてに対処している」。トランプ氏は8日、アゼルバイジャンとアルメニアの和平に向けた合意の式典でこう誇ってみせた。アゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相の間で満面の笑みを浮かべながら、両首脳と握手を交わした。
トランプ氏は1期目(2017~21年)で当時の安倍晋三首相にノーベル平和賞への推薦を依頼するなど、受賞に強いこだわりがあるとされる。「4、5回もらうべきだった」と自負する一方、「どうせもらえないだろう」と自虐的に語っている。
トランプ氏が「仲介」の実績として頻繁に挙げるのが、1期目にアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国とイスラエルが国交を正常化した「アブラハム合意」だ。2期目では、インドとパキスタンの停戦(5月)▽コンゴ民主共和国とルワンダの和平合意(6月)▽イスラエルとイランの停戦(同)▽タイとカンボジアの停戦(7月)――などの問題を解決したとしている。
また、和平合意の仲介には経済的な思惑も透ける。コンゴ東部の紛争に関する合意では、米企業がコンゴにある重要鉱物資源にアクセスできるようになった。アゼルバイジャンとアルメニアでも、米企業がインフラ開発を手掛ける。
だが、インドはトランプ氏の仲介を全面的に否定。昨年の大統領選の公約でもあるロシアとウクライナの停戦仲介は難航しているほか、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘も続き、人道危機が深刻化している。対外援助事業を担った米国際開発局(USAID)を解体するなど、他国への援助にも後ろ向きだ。
一方、トランプ氏と良好な関係を築きたい外国政府や首脳の間で、ノーベル平和賞への推薦や受賞すべきだとの称賛が増えている。これまでにイスラエルやパキスタン、カンボジアが推薦を決めた。8日もアゼルバイジャンとアルメニアの両首脳から受賞にふさわしいと持ち上げられ、トランプ氏は上機嫌だった。
ワシントンで活動する外交関係のロビイストは取材に、「外交関係者の間では、オバマ元大統領が受賞したノーベル平和賞をトランプ氏も欲しがっているというのは常識になっている」と指摘。「トランプ氏の機嫌を取るには、ノーベル平和賞を利用するのが最も手っ取り早い」と話した。【ワシントン松井聡】
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