この夏、民放各局がさまざまな音楽特番を放送したが、NHKも新たな音楽特番『MUSIC GIFT』を放送する。「夏の紅白」とも言うべき、注目すべき内容だという。その理由について、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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9日夜、新たな夏の音楽特番『MUSIC GIFT 2025 〜あなたに贈ろう 希望の歌〜』(NHK総合、第1部・19時30分〜20時55分、第2部・22時〜22時50分)が放送されます。
同特番のコンセプトは、「放送100年、戦後80年の節目の夏に、過去から今、そして未来への希望をつなげていく歌のギフトを届ける」。司会を二宮和也さん、二階堂ふみさん、中山果奈アナウンサーが務めるほか、5日には出演アーティストと歌唱曲などが発表されています。
特筆すべきは同特番が『思い出のメロディー』(1969年〜2019年)、『ライブ・エール』(2000年〜2023年)の流れを継ぐ「夏の紅白」とみなされる位置付けであること。
はたして『MUSIC GIFT』はどんな内容で、何が期待できそうなのか。なぜ「夏の紅白」と言われるポジションなのか。民放が放送した夏の音楽特番との比較も含めて掘り下げていきます。
メインは『あんぱん』のステージか
まずセットリストを見ると、第1部は下記の順で予告されています。
「上を向いて歩こう」出演者有志
「ありがとう」いきものがかり
「アルデバラン」AI
「はんぶんこ」MISIA/清明学園初等学校とんぼっこ合唱団
連続テレビ小説「あんぱん」スペシャルステージ/コーナーMC今田美桜・北村匠海
「東京ブギウギ」大森元貴・原菜乃華
「ゲゲゲの鬼太郎」氷川きよし
「いい湯だな」純烈・新浜レオン
「見上げてごらん夜の星を」山寺宏一
「恋の季節」今陽子・純烈・新浜レオン
「アンパンマンのマーチ」戸田恵子・中尾隆聖・山寺宏一
「手のひらを太陽に」コーナー出演者全員
「クスノキ-500年の風に吹かれて-」福山雅治
「ケセラセラ」Mrs. GREEN APPLE
「何度でも〜その先へ」DREAMS COME TRUE
「一本の鉛筆」氷川きよし
「虹-With 5,000 souls-」福山雅治
ニュース番組の『サタデーウォッチ9』をはさんで行われる第2部は下記のアーティストが出演。
「栄光の架橋」ゆず
「紅蓮華〜残酷な夜に輝け」LiSA
「死んだ女の子」元ちとせ
「ここからだ!」DREAMS COME TRUE
「空」BE:FIRST
「風になりたい」宮沢和史/千葉県立松戸六実高等学校吹奏楽部
「希望のうた」MISIA
「Soranji」Mrs. GREEN APPLE
長年放送された『思い出のメロディー』は視聴者リクエストを含む昭和の名曲を中心に構成され、それに続く『ライブ・エール』は昭和・平成・令和の楽曲をミックスした選曲でした。一方、今夏の『MUSIC GIFT』は「夏」と「希望」をさらにフィーチャーするような選曲が目立ちますし、これまで以上に「NHKならではの夏特番」になりそうなムードがあります。
そしてもう1つ「NHKならでは」の構成・選曲は、朝ドラ『あんぱん』のスペシャルステージ。物語のモデルとなった、やなせたかしさん、いずみたくさんの楽曲で第1部の半分弱を占め、さらに今田美桜さんと北村匠海さんが出演することも含めて最大のコンテンツと言っていいでしょう。
民放の音楽特番では放送中のドラマをこれほどピックアップすることはないだけに、「『夏の紅白』は『年末の紅白』以上に朝ドラにスポットを当てて楽しんでもらおう」という狙いを感じさせられます。その他でも『ゲゲゲの女房』の「ありがとう」と『カムカムエヴリバディ』の「アルデバラン」が披露されることも含め、朝ドラ主題歌の影響力や普遍性をあらためて感じられるのではないでしょうか。
新特番が「夏の紅白」と言われる理由
次に、なぜ『MUSIC GIFT』は「夏の紅白」と言われるポジションなのか。
NHKが生放送する大型の音楽特番であること、幅広いジャンルのアーティストと楽曲がそろうこと、この日だけのスペシャルステージが見られること、これまで「夏の紅白」で歌い継がれてきた「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」が披露されることなどの理由があげられます。
実際にMISIAさんは和歌山県高野山の金剛峯寺で歌唱、ゆずは東京フィルハーモニー交響楽団の52人と共演、DREAM COME TRUEは夢を追う若者たちとダンスコラボ、元ちとせさんはプロデュースを手がけた坂本龍一さんのピアノ音源で歌唱などのスペシャルステージが予告されています。
それ以外では、人気絶頂状態のMrs.GREEN APPLEが2曲を披露し、若年層に人気のBE:FIRSTも出演。さらにLiSAさんが『鬼滅の刃』スペシャルメドレーを披露するほか、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』のスペシャル映像などの演出も予告されています。
「年末の紅白」ほどの規模はないものの、より季節性やテーマ性は高く、番組名に「2025」という表記があるだけに「夏の定番にしていきたい」のではないでしょうか。
「年末の紅白」に嵐の出演はあるか
民放が夏に放送する音楽特番は、7月2日に『2025 FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ系)、同5日に『THE MUSIC DAY 2025』(日本テレビ系)、同9日に『テレ東音楽祭2025〜夏〜』(テレビ東京系)、同18日に『ミュージックステーション SUPER SUMMER FES 2025』(テレビ朝日系)、同19日に『音楽の日 2025』(TBS系)が放送されました。
民放が“夏のはじまり”に集中しているため、“真夏”に放送される『MUSIC GIFT』は放送時期だけをとっても貴重な存在。また、民放の音楽特番は夏の野外フェスをイメージするようなお祭りさわぎの演出が目立つ一方、NHKの『MUSIC GIFT』はしっかり歌を聴いてもらう豪華な歌謡ショーという印象の特番になりそうです。
最後に『MUSIC GIFT』が「夏の紅白」と言われる理由をもう1つ。二宮さんと二階堂さんは「年末の紅白」でも司会を務めた経験があり、看板アナウンサーを加えた構成は「ゆくゆくは『紅白歌合戦』と並び立つようなブランドに」という思いを感じさせられます。
はたして『MUSIC GIFT』は「年末の紅白」に向けてどんな布石を打ち、視聴者の期待感を高めていくのか。また、二宮さんが「夏の紅白」で司会を務めることで、来春にラストコンサートツアーを予定している嵐が「年末の紅白」に出演するかも……と期待する人も少なくないでしょう。
生放送だけに何が起きるのかわかりませんが、「年末の紅白」を意識させるポジティブな仕掛けやパフォーマンスを期待したいところです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
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