
アドリア海に面したクロアチアの都市ビオグラード・ナ・モル市で6日、原爆犠牲者追悼式典が開かれた。市庁舎前に設置した特設会場で式典後、ヒロシマとナガサキをテーマに制作されたドキュメンタリー映画が上映され、独ミュンヘンを拠点に活動する和太鼓グループ「雷鼓(らいこ)」の演奏も披露された。雷鼓のメンバーで茨城県つくば市出身、ミュンヘン在住の尾和(おわ)ハイズィック香吏(かおり)さん(54)は「戦後80年の節目に、平和への祈りを表現できるのは喜び。夢のような時間だった」と市民らの温かな拍手に感謝した。
式典はイバン・クネズ市長が毎年主催し、今年で16回目。市が平和を祈念して2009年に建立した「折鶴像前」で行われ、和田充広大使も出席した。
大使はあいさつで、広島と長崎で原爆の犠牲となった人々に哀悼の意を表すとともに、国際社会が核兵器のない世界の実現に向け努力する必要性を強調した。

尾和ハイズィックさんによると、クロアチアでは「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子(さだこ)さんが回復を祈って千羽鶴を折る話を学校で習うといい、市長は「今後も式典は(6日に)行う。その信念で16年間、続けてきた」と答えたという。
この日、和太鼓を披露したのは、日本人2人、ドイツ人2人、ブラジル1人の計5人。リーダーのトーマス・ポルツァーさん(57)をはじめ、メンバーの多くが24年に広島を訪れて「被爆の実相」に触れ、戦後80年を迎えることに特別な思いを抱いてきた。
そうした中、近年式典に参加している日本人声楽家で、ミュンヘンフィル合唱団正団員の平井有(なほ)さん(53)を介し、市から雷鼓に出演依頼があった。メンバーは二つ返事で快諾。稽古(けいこ)を重ね、準備を進めてきた。5人は着物の帯で仕立てたそろいの衣装に身を包み、息ぴったりに2曲を演奏した。
「和太鼓には魂が鳴り響く、特別な力がある」と平井さん。この日、ビオラ奏者の夫と共に「この道」などを披露した。広島で音大時代を過ごした平井さんは「クロアチアで被爆を忘れず、平和を願って式典を続けていると初めて知った時は驚いた。日本でも目を背けず語り継がなければならない。その思いで歌った」と語った。
和太鼓演奏が成功裏に終わり、尾和ハイズィックさんは「ドイツに住んで16年。近隣国で戦争がやまぬ中、人々が平和への願いを改めて認識するきっかけになれば」と願っている。【鈴木美穂】
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