
平均寿命が40歳に満たなかったともいわれる江戸時代前期に、83歳まで生きた儒学者、貝原(かいばら)益軒(えきけん)(1630~1714年)。「老後一日も楽(たのし)まずして、空(むな)しく過(すご)すはおしむべし。老後の一日、千金にあたるべし」と記した「養生訓」は現代でも健康指南書として読み継がれる。出身地の福岡で「益軒(えっけん)さん」と呼んで親しむ人たちを訪ねた。
「一般に知られる『健康』『科学』という側面だけでは、益軒さんの全体像は見えてこないでしょう」。そう語るのは、日本近世文学が専門で益軒に詳しい久留米大の大庭卓也教授(54)だ。
福岡藩士の家に生まれた益軒は、歴史、文学、言語、地理など多くの分野の著作を残した。儒学はあらゆる領域の研究を含む学問体系で、益軒はその研究姿勢を日本のさまざまな事柄に応用した。当時の日本にとって学問と文化の先進地だった中国の書籍から情報を取捨選択し、風土に合うものを日本に伝えた。さらに、より多くの人たちが読めるように平易な仮名交じりの本に著した。
最晩年にまとめた「養生訓」もその一つで、中国の医学に関する本から日本にも役立つ内容を拾い上げ、自らの体験なども加えた。
大庭教授が養生訓で最も好きな一節(巻第8「養老」から)を現代語風の訳…
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