
文学は役に立つのか――。
繰り返し問われてきた問いに、作家の平野啓一郎さんが答えている。
新刊エッセー集「文学は何の役に立つのか?」(岩波書店)は、その言葉そのものを冠した刺激的なタイトル。「よく聞かれることなので、受けて立つという感じです」。そこには平野さんの実体験が大きく反映されている。
過去7年の講演や寄稿などをまとめた。文学論や芸術論、追悼文と内容は多岐にわたる。
冒頭の講演録で、平野さんはこの大きな問いに「今の世の中で正気を保つため」と答えている。
精神的な健康を保つ手段であって、同時にインターネットを中心に言葉が混乱状態にある中で、文学の存在意義が問い直されていると続けている。
「役に立つ」とは何か
まず慎重に問うているのは「役に立つ」という言葉の両義性だ。
「文学の側から見ると、特に人の役に立とうと思ってはいなくて、むしろ『役に立つ』という言葉に反射的な拒否感があると思うんです」
効率性重視の風潮の中で、文学に限らず役に立っても立たなくても存在すること自体に価値があるという立場。人間でいえば、基本的人権の尊重に通じる。
その上でこう話す。「一方で、身…
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