高校野球・夏の甲子園3回戦(16日)
○京都国際3―2尽誠学園(香川)●
託された期待の大きさを全身でひしひしと感じながら、京都国際の2年生・小川礼斗(らいと)は1点を追う終盤八回の第4打席に向かった。
「ここで打たなければチームは負ける。自分の殻を破りたい。もっと3年生と野球がしたい」
この直前、小牧憲継監督は迷っていた。1死一、二塁で小川の前打者、長谷川瑛士に回り、「エンドランを仕掛けようか、普通に打たせようか」。
尽誠学園の主戦・広瀬賢汰は尻上がりに調子を上げていた。小牧監督は「一気に追いつき、ひっくり返したい。小川は腹をくくって勝負にいける。何かやってくれる」と覚悟を決めた。
長谷川に送りバントのサインを出すと、きっちりと1球で決めて、2死ながら走者は二、三塁へ。逆転への舞台は整った。
夏の甲子園連覇を狙う今季のチーム。上級生と下級生の垣根は低く、小川の言葉を借りれば「寮とかでも仲良くワーワーやっていて本当に絆が強い」という。
だが、心地よい環境は甘えにつながった。京都大会中、小川は小牧監督から「使っている意味を考えろ」と発破をかけられた。
「気持ちが浮つき、先輩に任せきりになっていた」と小川。試合に出られない悔しさをこらえてサポートに徹する3年生の姿に「自分が打って恩返しする」という気持ちは日増しに強まった。
感謝を形で示す――。最大の好機で広瀬と相対した小川は「変化球は全然タイミングが合わない。真っすぐを狙う」と割り切った。
カウント1―1からの3球目、待っていた外角の138キロに食らいつく。打球はゴロになったが一、二塁間をしぶとく破った。走者2人が生還し、聖地は歓声とどよめきに包まれる。喝采を一身に浴びた小川は引き締まった表情を崩さず、塁上で大きく息を吐いた。
「あの一球に思いを乗せて打ちました」
尊敬する、大好きな先輩との夏、簡単には終わらせない。【角田直哉】
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