「地獄から助け出してほしい」。制圧に向けたイスラエルの動きが強まるパレスチナ自治区ガザ地区の最大都市ガザ市で、住民の悲痛な声が上がっている。仲介国は本格的な作戦開始前の合意を目指し、新たな停戦案を出す意向だが、状況は一層緊迫している。
ガザ市西部でテント暮らしを送るムハンマド・アブドゥッラーさん(34)は、「今はただ、これから何が起きるのかとおびえている」と、声を震わせながら語った。
アブドゥッラーさんは元々、ガザ市南部に住んでいた。しかし、空爆で自宅が破壊され、これまでに13回避難している。8日にイスラエル政府が制圧計画を承認して以降、攻撃はさらに激しさを増した。毎日新聞助手の取材に対し、疲れ切った表情で「空爆の音が恐ろしくて眠れない」と訴えた。
イスラエル軍は、約100万人が暮らすガザ市の住民を南方に避難させたうえで、地上作戦を実施する方針だ。しかし、国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、ガザ全域の約86%が立ち入り禁止または避難勧告区域に指定されており、住民の不安は高まっている。
「すべての人々を強制的に避難させるなんて、恐ろしい計画だ。一体どこへ行けばいいのか」――。アブドゥッラーさんは嘆いた。
イスラエルは3月初旬から2カ月半にわたり、ガザ地区への支援物資の搬入を完全に停止した。5月下旬以降は、国連に代わり、イスラエルと米国が主導する「ガザ人道財団」(GHF)が物資の配布を再開した。
しかし、GHFの配布拠点付近ではイスラエル軍の銃撃が相次いでいる。ガザ保健当局によると、食料を求めて殺害された人は1700人を超える。飢餓が深刻化する中、空中からの支援物資投下も始まったが、陸路に比べ輸送量は限られている。9日にはガザ中部で物資が直撃し、14歳の少年が死亡した。
ガザ市の海岸近くに住むラミ・ファトヒさん(40)は、「物資を空から投下して、住民に拾わせるなんて侮辱だ。本当に人道状況を改善したいなら、トラックで支援物資を搬入すればいいだけだ」と吐き捨てた。
ガザ市の制圧計画を巡り、地上作戦に踏み切る前の住民の強制避難の準備には、少なくとも数週間が必要とみられている。仲介国のカタールや米国は、拘束されている人質全員の解放と戦闘終結を目指す包括的な和平案を近くイスラエルとイスラム組織ハマスに提示し、作戦開始前に停戦にこぎ着けたい考えだ。
ガザ市で避難生活を送るアブデラティフ・サミさん(38)は訴える。「制圧計画が実行されるまで、もう時間は残されていない。戦火の中で2年近く生き抜き、疲れ果てている。イスラエルもハマスも妥協し、さらなる悲劇が起きる前に、この戦争を終わらせてほしい」【エルサレム松岡大地】
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