チームだけではない。学校中の生徒たちをも引っ張る頼もしい選手がいる。
全国高校野球選手権第12日の17日、第4試合の3回戦に登場する明豊(大分)の井上太陽選手(3年)だ。
2回戦までの2試合で「1番・右翼」で先発出場し、持ち味の思い切りのいいスイングで打線をけん引する。
そんなリードオフマンは学校生活では「生徒会長」としての顔を持ち、野球の結果に結びつけている。
「中学までは自分のことしか考えていませんでした」という井上選手。しかし、高校入学後に意識は変わった。
川崎絢平監督の「周りに応援される集団じゃないと甲子園では勝てない」という言葉が胸に響いた。
新チームになり昨秋の大分大会を制したが、九州大会は1回戦敗退。3季続いていた甲子園の連続出場が今春のセンバツ大会で途絶えた。
「思うように勝てない中で、学校生活から力をつけたかった」
周りの推す声もあったが、最後は自らが生徒会長に立候補することを決断し、選ばれた。
親元の大阪を離れて寮生活を送る中、母浩美さん(55)は「人前に出るのは嫌いではない性格ですが、まさか生徒会長になるなんて……」と家族も驚かせた。
周りから見られる目が変わると、行動にも変化が生まれた。
朝、登校する生徒へのあいさつ運動を野球部員と一緒になって積極的に取り組んだ。
校内で落ちているゴミは率先して拾い、乱れているスリッパはきっちりと並べる。広い視野が養われた。
生徒たちの声に耳を傾け、行動にも移した。
前向きに学校に通いたくなるようにと、シンプルなデザインに限られている靴下についての緩和を学校側に要望した。
生徒会副会長の高橋青弥(はるみ)さん(3年)は「話しやすい雰囲気を作ってくれて、みんなの意見も聞いてくれる優しいリーダー」と話す。
川崎監督は「元々、真面目で熱い男だったが、生徒会長になってからは責任感を持って、率先して(何事にも)取り組むようになった」と目を細める。
1番打者の成長は当然ながらチームに好影響を生み出す。
1回戦の市船橋(千葉)戦は長打で球場を沸かせた。
五回に貴重な追加点となる適時三塁打。九回は一死から二塁打で出塁し、ダメ押しのホームを踏んだ。
2回戦の佐賀北戦は5打数無安打に終わったものの、五回に3点を先行して優位に進め、6―1で快勝。今度は仲間に助けられた。
名前の「太陽」の由来について、浩美さんは「太陽がなければ人も植物も生きていけませんので……」と話す。周囲を照らし、必要とされる人になってほしいという思いが込められている。
アルプス席には大勢の生徒たちが駆けつけ、野球部を後押しする。井上選手は「ありがたいです。感謝しかなく、恩返しをしたい」と語る。
真夏の甲子園で「太陽」はさんさんと輝きを放っている。【村上正】
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