
今年は「戦後80年」という節目に合わせた記事が数多く見られ、さまざまなイベントも開かれている。そんな中、「戦後80年という言葉に違和感がある」と話すのは、劇作家で精神科医でもある胡桃沢伸さん(58)だ。その真意を尋ねた。【聞き手・竹内麻子】
――「戦後80年」という言葉になぜ違和感を覚えるのでしょうか。
◆頼まれて登壇した精神科関係のシンポジウムのタイトルに「戦後80年」とあって嫌だなと感じた。戦争の苦しみは終わっていない。いろいろな状態の人がいるのにスパッと切りそろえて同じ「80」にならす言葉の使い方だと思った。
精神科の治療では相反する気持ちをそのまま認めて切り捨てないことが大事だ。数字で区切らず、一人一人の事情を尊重する姿勢が欠かせない。1人の患者を「1」と数字で捉えると個性が失われる。
1945年8月で戦争が終わったことにして責任を取りたくない人たちにとって「戦後80年」は都合のよい言葉だと思う。空襲被害者は「戦争ではみんな被害を受けたのだから我慢しなければならない」という「受忍論」を盾に何一つ救済されていない。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)になった兵士の家族はドメスティックバイオレンス(DV)という形で今も被害に苦しんでいる。「戦後80年」という表現はそういった人たちを無視している。
80年たっても戦争は終わっていない。主体的に戦争を進めた人たちの責任が問われずに今がある。「もう戦争しません」という言葉が空疎に響く。決着をつけないまま次になだれ込もうとしているのでは。
――戦争の加害責任というテーマに、劇作家として向き合ってきました。
◆戦後に米兵を相手にした日本人「慰安婦」を描いた「あの少女の隣に」という劇を2021年から上演してきた。男性による一人芝居で、国家ぐるみで「慰安施設」を設置してきた加害の側の論理を舞台に上げて、光を当てたかった。
戦争のために個人の性を…
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