和歌山県立自然博物館や摂南大などの研究グループが全国調査と遺伝解析により、日本に広く生息するサワガニが大きく5集団に分かれることを突き止めた。集団は地理的にはっきりした境界を持ち、体色タイプの分布も明らかになった。研究グループは「身近な生物でありながら分かっていないことの多いサワガニについて、今後の研究の基盤となる成果」と位置付けている。論文が7月15日付で英電子科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
サワガニは日本固有種で、北海道から鹿児島県のトカラ列島まで広く生息する淡水性の生物。自然博物館の高田賢人学芸員と、元同館学芸員で摂南大農学部の国島大河講師が地域によって体色が異なることに着目し、2人を中心に6年がかりで論文にまとめた。
研究では、全国各地の217地点から計504個体を採集。体色を五つのタイプ(青色型、赤色型、茶色型、天草型、その他)に分けて地理上の分布を明らかにし、DNAを高速で解読する「次世代シーケンサー」を用いた遺伝解析によって集団構造を調べた。
その結果、SHI集団(四国南部、紀伊半島南東部)▽HO集団(北海道、青森県~鳥取県の本州、四国北西部)▽nKC集団(九州北部、島根県以西の中国地方)▽cK集団(九州中南部)▽sKK集団(鹿児島県南部と周辺離島、房総半島~伊豆半島の沿岸部)――の5集団に分かれることが判明した。
飛び地を含む複雑な分布パターンは火山活動や島の形成、海水面の変動などの複合的な要因が考えられるという。sKK集団のように青色型だけで構成される集団もあるが、同じ体色が複数の集団に見られるため、体色だけで集団を識別できないことも示された。
更に5集団の分岐順を推定したところ、約110万年前から約42万年前にかけ、SHI集団、HO集団の順に分化した後、九州に境界を持つ3集団がほぼ同時に分化したと考えられるという。
高田学芸員は「サワガニを理解する上で色も大事な要素の一つと分かったことも大きなポイント。(遺伝的な要因だけでなく)環境に適応した結果、こういう色になったのではないかといった次の研究につながる」と話している。
研究成果を展示へ
海南市船尾の県立自然博物館では9月2日から、今回の研究成果を展示で紹介する企画を開催する。5集団ごとに水槽でサワガニを生体展示し、論文の内容をパネルで解説する予定。【姜弘修】
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